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 「国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律」(一般に「端数計算法」)は、地方公共団体にも適用され、自治体の予算執行の場でしばしば登場します。

 やや拡大適用される傾向にあることが気になっています。

 

端数計算法の主な部分は、次のとおりです。

(通則)

第一条  国、沖縄振興開発金融公庫、地方公共団体及び政令で指定する公共組合(以下「国及び公庫等」という。)の債権若しくは債務の金額又は国の組織相互間の受払金等についての端数計算は、この法律の定めるところによる。

 他の法令中の端数計算に関する規定がこの法律の規定に矛盾し、又はてい触する場合には、この法律の規定が優先する。

(国等の債権又は債務の金額の端数計算)

第二条  国及び公庫等の債権で金銭の給付を目的とするもの(以下「債権」という。)又は国及び公庫等の債務で金銭の給付を目的とするもの(以下「債務」という。)の確定金額に一円未満の端数があるときは、その端数金額を切り捨てるものとする。

 国及び公庫等の債権の確定金額の全額が一円未満であるときは、その全額を切り捨てるものとし、国及び公庫等の債務の確定金額の全額が一円未満であるときは、その全額を一円として計算する。

 国及び公庫等の相互の間における債権又は債務の確定金額の全額が一円未満であるときは、前項の規定にかかわらず、その全額を切り捨てるものとする。

 

ある市の混乱(契約保証金)

契約保証金は、契約を締結するに先立って、相手方が自治体に納付する保証金です。相手方が契約上の義務を履行しない場合には、自治体が没収します。各自治体の規則で、「契約金額の100分の10に相当する金額以上の金額」等と定められています。

平成28年、ある市が、契約保証金について、契約金額に100分の10を乗じて1円未満の端数を生じた場合はそれを切り上げる旨の通知を出しました。実は、その市は、数年前に、従来は切り上げていたものを切り捨てることに変更したばかりだったのです。

 この改変の理由は、端数計算法の解釈の誤りにあったのだと思います。

 実は、「地方財務実務提要」「契約実務ハンドブック」という自治体職員が参考にしている2つの書籍に、契約保証金について「端数計算に関する法律に従って、1円未満を切り捨てる」旨の誤った記載がかつてあったのです。それらの記載は、疑問に思った自治体の職員が出版社に問い合わせ、出版社を介した執筆者とのやり取りの結果、平成26年ころに削除されました。地方財務実務提要では、契約の章からは削除され、第3167節「その他諸法関係」8210頁に、正しく改められました。

 この市は、昔は正しく切り上げていたものを、書籍の記載を見て切り捨てに改め、その後、書籍からその記載が改正されたので、元に戻されたものだろうと想像しています。

 この契約保証金などは、法律を一読すれば、端数計算法の対象外であることは、明らかです。

 

我が自治体も危なかった!

 実は、私の属した自治体でも、危なかったのです。

 新任の会計職員向けのテキストの原案に「契約保証金は、契約金額に100分の10を乗じた額に1円未満の端数が生じた場合は切り捨てる。」旨の記載があり、原案作成者は前述の書籍を根拠に提示しました。書籍には確かにそのような解説されていましたが、私は絶対に誤りだと確信したので、テキスト案のその部分の記載を削除してもらいました。

 このような自治体は、ほかにもあると思います。

 

「債権」、「債務」と「確定金額」

 契約保証金は、契約しようとする者があらかじめ預託するもので、契約を断念すれば納める必要がなく、自治体から請求することもできません。自治体にとって「債権」と言っていいのか疑問です。

 「確定金額」は特に定義されていないので、一般的な国語の感覚で、「最終的に支払うべき金額として確定した金額」というくらいの意味だろうと思います。「○○以上の額」などと定められているものは、「確定金額」とは言えないでしょう。100分の10を計算して、1,111.6になったら、それ以上の額ならいくらでもいいわけで、そんなものが確定金額と言えないであろうことは法律を読んだだけで明白です。

 また、100分の101,111.6で、それ以上の額という条件なら、保証金額を最小に抑えようと思えば1,112円を保証金とすればいいわけです。この法律の必要性、出番はありません。

 このほか、端数計算法を根拠に、計算の途中の過程で端数切り捨てをする人もいますが、それも、法律の適用を誤っています。

 「端数計算法の誤った適用2」

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