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  副題: 東大ゼミで「人間と歴史と社会」を考える

 本書は、東京大学の大沼保昭教授が、その法学部・公共政策大学院の合併ゼミとして、慰安婦問題を通して人間と歴史と社会を考えるというテーマで1年間にわたり行われたゼミの記録です。その間、アジア女性基金にかかわった人たち、国の責任を曖昧にしたままの基金による償いに反対して国家補償を主張する人、補償に反対の立場の論客、歴史家など、20名ほどの人たちの講演を聴き、質疑応答をされています。本書では、その中から和田春樹氏、秦郁彦氏、吉見義明氏、上野千鶴子氏、長谷川三千子氏、石原信雄氏、村山富市氏の講演とゼミ生との質疑応答の概要、その他の講師の講演概要がまとめられています。

 編著者の大沼教授自身は、アジア女性基金の設立にも大きく関わった方で、元慰安婦に対する補償を推進された立場です。

 

分かったこと、分からないこと

 私は慰安婦問題について自分なりの考えは持っていましたが、事実はどういうことであるのかをもっと明確に知りたいという気持ちがあり、本書を読んでみました。

 軍などによる強制性を認め、補償に賛成する立場の人たちも含め、歴史学者の方たちは、朝鮮半島においては軍や官憲による強制連行とか、女子挺身隊として徴用した女性を慰安婦にしたなどということについては全く裏付けがなく、そんな事実はなかったであろうことについては、概ね一致しているようです。

 慰安婦の募集や移送について軍や行政が便宜を図り、また、慰安所の管理運営について軍の統制があったことについても、一致しています。ただし、それをもって「強制性」として補償を要するものと考えるかどうかという点で、考え方の相違があるだけのような気がします。他に何か「強制性」を示す具体的な事実がないか、注意深く読んでみましたが、本書からは読み取れませんでした。

 官憲が、甘言を弄して女性をだまして連れて行ったという元慰安婦の証言はありますが、目撃者の証言などはないようです。補償を支持する立場の人の中には、それらの証言を一部信じる人もいますが、怪しげな証言もあることは認めているようです。

 悪質な業者を官憲が取り締まっていた資料があるので、悪質な業者もいたことは間違いないでしょう。ただ、ほとんどの場合、連れていかれた親、家族にかなりの額のお金が支払われ、抵抗運動などが発生していないことからすると、親や家族は知っていたと考えるほうが自然だと思います。

 

 慰安婦を利用したという道義的な責任はあるかもしれませんが、当時は違法ではなく、それを断罪するなら他国の軍隊も同罪です。

 政府には、強制連行などという根も葉もない言いがかりに対しては、毅然として対処していただきたいと思います。

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