著者は、夕張市や岩見沢などで「ささえる医療」を実践してこられた医師であり、自らも白血病に罹患して化学療法、2度の骨髄移植などを経験されています。本書は、そのような体験から感じた今の地域医療の矛盾点、持続可能な制度にするための改善策などが書かれています。

 私は、著者のことを存じ上げなかったので、ネットで検索してみたところ、交際していた女性同士が殺人未遂事件を起こすなど、私生活には問題もあったようです。また、本人もこの本の中でADHDであることを明かしていますが、その性格が次々に新しいことに手を広げる原動力にもなっていたのかもしれません。また、本書の「おわりに」は、2017320日の日付ですが、同年5月に白血病で死去されています。

 したがって、本書は、著者の遺言のような性格です。著者は、私生活などには問題があったものの、地域医療に残した功績は大きく、その情熱は本物であったと思います。私も大いに共感しました。

 

 本書は、三つの章で構成され、第1章「高齢者医療がおかしい」は自身の白血病闘病生活の記録とそこから見えてきた医療、特に高齢者医療の問題点です。

 第2章「夕張の「ムダ」を変える」では、財政破綻していったん閉鎖された市立総合病院の経営を公設民営の19床の診療所として引き受け、予防医療を中心に地域医療に取り組み、挫折した記録です。既得権益を守りたい人たちの壁を崩せなかったと述べられています。

 3章「新しい地域医療のかたち」では、著者が実践してきた医療の姿を中心に、今後の地域医療について提言されています。地域では、治療重視の医療からケア中心の「ささえる医療」「医師は死を必然と認めて天寿を全うさせるサービス職」のような形に転換すべきとの主張です。そのためには、医療はコミュニティーと一緒にやらなければならないとの主張は、説得力があります。

 

 著者が最も熱心に主張されていることの一つは、専門的な医療は都市部に集中して、地方では予防やケアを中心に地域コミュニティーと連携して提供していく「ささえる」医療です。これには、多くの人が賛成だと思います。また、現在厚生労働省が進めようとしている医療の改革に通じるものがあります。

 イギリスでは、寿命を1年以上伸ばす効果があり、経費が年間400万円以下の薬に保険を適用するという基準があるとのことです。著者は、日本にも線引きが必要だとの主張ですが、これには反対する人も多そうです。しかし、国民皆保険を破綻させないためには、そのようなことも考える必要があると思います。

 

 子や孫に理不尽な負担を負わせないため、高齢者の医療を考え直すべきであると思います。私も高齢者(65歳以上)間近ですが、それを受け入れます。

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