地方自治日記

地方自治に誠実に取り組んできた県職員OBです。県の市町村課に長く在職したほか、出納局、人事委員会などのいわゆる総務畑が長く、自治制度等を専門分野としてきました。県を退職後も、時々、市町村職員などの研修で、自治制度、公務員制度、文書事務などの講義もしています。 単に前年どおりに仕事をすることが嫌いで、様々な改革・改善に取り組んできました。各自治体の公務員の皆様には、ぜひ法令を正しく合理的に解釈し、可能な限り効率的、効果的な行政運営をしていただきたいと願っています。

2017年04月

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 地方自治体の職員が公文書に虚偽の記載を余儀なくされている主なものに、履行検査、履行確認の日付があります。これも、深く考慮せずに出された総務省(旧自治省)の通知等に責任があります。

 

地方自治法施行令第143条(歳出の会計年度所属区分)

 歳出の会計年度所属は、次の区分による。

 (4) 工事請負費、物件購入費、運賃の類及び補助費の類で相手方の行為の完了があった後支出するものは、当該行為の履行があった日の属する年度

 

 この規定は、民間の会計区分のやり方と概ね同様の、常識的なものでしょう。

 しかし、「地方自治小六法」にこの規定の解釈として載っている次の通知は、どうでしょうか?

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総務省(旧自治省)の通知、指導等

  「工事請負費等は履行の確認のための検査の日によって所属年度が左右されるのが原則である。」(昭38.12.19通知)

  「『当該行為の履行があった日』とは、履行確認の日をいう。同上)

  また、「地方財務実務提要」には、

 「工事が平成2325日に完成したが、都合により同年43日に履行確認(検査)を実施した。」というケースについて、繰越手続がとられていない場合は、新年度予算で支払うこととされています。

 

 旧年度中に履行があったことが明らかであっても、履行検査が新年度になれば新年度予算から支払わなければならないというのは、施行令に反していると思います。民間なら、当然、旧年度分の未払金等に計上し、旧年度の経費等にすると思います。つまり、ある年度の経費は当該年度の歳入でまかなうという、会計年度独立の原則にも反する結果になります。

 

明白に不合理なケース

 工事の費用であれば、この不合理はあまり大きな不合理とは言えないかもしれません。

 

 しかし、

331日までの施設の保守管理や警備の委託、機器の賃貸などの契約は、膨大にあります。

これらの契約も、331日までに履行確認が行わなければ新年度の支出とせざるを得ないことになっています。しかし、そんなことは不可能です。これらの契約は、331日が何事もなく満了して、完全に履行されたことになるから、確認は新年度にならざるを得ないのです。

 

虚偽公文書作成の横行

 上記のような契約に係る支払の際にも、履行確認の日は331と記載されます。331日が土曜日、日曜日だったとしてもです。

 もちろん、実際に331日の深夜24時、41日午前零時の直前に履行確認を行っているはずはなく、虚偽の記載をしているのは明白です。

 

合理的な制度運用は?

 旧年度中に履行されたことが確認(推定)されれば、その確認行為が新年度であったとしても、「履行があった」旧年度の支出とするのが、合理的ではないでしょうか?

 

 履行確認の日付は、擬制的に331日としているだけだから、問題ないという人もいます。しかし、「擬制」というのは、例えば、4月に履行確認して日付も4月にしていたとしても一定の場合には旧年度中に履行確認したとみなすことで、職員に虚偽の記載をさせることを擬制とは言わないと思います。

 また、こんなことをしていると、履行確認が形骸化したり、職員が日付を遡ることに罪悪感を持たなくなってしまいます

 

 まともに、正々堂々と運用できる制度運用とすべきです。

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 地方公共団体の支払は、相手方の履行が終わったことを確認してから支払うのが原則です。この原則に対し、地方自治法第232条の5第2項、同施行令第163条で、一定の場合に前金払が認められています。

しかし、この前金払は、年度を超えて行うことができないことになっています。法令で明確に禁止されているわけでもなく、おそらく会計年度独立の原則や予算単年度主義を尊重した総務省(旧自治省)の指導によるものです。

 

この制約のもとになっているのが、次の「行政実例」です。

 

昭和2962日自丁行発第84号 行政課長回答

 問 自治令「前金で支払をしなければ契約しがたい請負、買入れ又は借入れに要する経費」には当該年度のみならず後年度に及ぶ部分の経費をも含むものと解してよいか。

 答 後年度に属する経費を当該年度において前金払することはできない。たとえある経費を継続費としたとしても、当該年度の支出額に計上されていない限りできない。

 

外国雑誌の購入

 筆者が20年ほど前、最初に「地方財務実務提要」(㈱ぎょうせい)の内容に疑問を覚えたきっかけは、「外国雑誌の購入と前金払」というQ&Aでした。そこでは、前述の行政実例などを引き合いに、「履行が後年度にわたるものは後年度分は前金払できないものと解さざるをえない」と結論付けています。

 筆者は、これを読んで腹が立つと同時に、あきれました。

 この人たちは、地方自治体は外国雑誌など購入する必要がないといっているのだろうか?

制度を所管する立場にありながら、対応策も示さず、ダメというだけは、無責任の極みではないか?

元々想定していたケースではないだろうし、本来の趣旨からは外れるかもしれないが、法令で明確に否定しておらず、そういう必要性があるのだから、認める以外にないではないか?

 

こういう場合、購入担当者としてひねり出す対策は、たいていろくなものではありません。

① なじみの業者に因果を含めて買ってもらう。(業者に前金を立て替えさせる。)

② 裏金から購入する。(現在、裏金を持っている役所は筆者の知る限りありませんが、20年前くらいまでは多くの役所が裏金を管理していたと思います。)

つまり、実態を無視したくだらない規制は、癒着や違法行為を生むということです

 

保険料の前金払

 年度を超える前金払を認めないという規制が、いかに馬鹿げたものかというもう一つの好例が、保険料です。

 自治体が行う保険契約は、イベント保険などを除き、ほとんどが1年以上の期間の保険です。しかも、保険料は前払いが原則です。

 41日から1年間の保険契約であっても、保険料は3月中に払わなければなりませんし、一般的には年度途中から翌年度にかけての契約です。つまり、どうしても年度を超えた前金払が発生するのです。

 つじつまを合わせるには、長期継続契約に指定するか、債務負担行為継続費を設定するかの手法も考えられますが、そんなことをしている真面目な自治体は、あまりありません。また、債務負担行為や継続費は、後年度の支払予定がなければ設定できません

 一部(多数?)の自治体は、これは前金払ではなく、「権利の購入」であり、1年間の安心という権利を確定的に購入するのだなどという屁理屈で対応しています。笑い話ですよね。前金払、あるいは前払いというのは、そういうことを言うのですから。

 

 実態を無視したくだらない規制は、癒着や違法行為を生むほか、笑い話も生み、人から笑われるということです。


 

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 固定資産税は、市町村の税収の約4割を占める基幹税目であり、都市計画税も合わせると、5割近くを占めます。しかし、その評価額には、さまざまな意見、疑問が出されています。

実態に合わない評価額

 全国的に人口減少が進み、特に地方では空き家が目立ちます。旧市街地の商店街はシャッター通りとなり、山間部などには廃屋が点在します。

 そのような旧市街地の宅地や家屋の固定資産評価は、過去の栄光を引きずり、一般に実勢よりかなり高額です。廃業などでシャッター通りの店舗兼住宅がしばしば売りに出されますが、買い手はほとんど付きません。ようやく買い手が見つかっても、二束三文、固定資産評価額の数分の一の価格がせいぜいです。

 土地の固定資産評価額は、実勢価格の7割、相続税評価額の8割と言われていました。今でも、一般的にはその程度の水準になっているのかもしれません。一方で、旧市街地の商店街のような現状があります。このアンバランス、不公平が問題です。

 

市町村に評価額での買取を義務づけよ!

 そんな価格で売れるはずがないような高額な評価を市町村がするのは、そのことによって市町村に利益はあっても、リスクがないからです。それでは、無責任な評価になってしまいます。

 市町村は、ある土地などを1000万円と評価して課税するのであれば、それに不満な納税者が買取を求めた場合、その価格での買取を義務付けるべきです。その価格で買い取る覚悟もなく、高い評価をするのは、非常に無責任だと思います。

 少なくとも、土地についてはそのような制度を設けるべきです。

 

評価額での買取制度のメリット

 1 評価に対する納得性が高まります。

 2 地価の下げ止まりが期待できます。

    固定資産評価額ならば市町村が買ってくれるという安心感が生まれます。

 3 一定の公有地を確保することにより、再開発がしやすくなります。公共施設や代替地などにも利用できるかもしれません。

   使用目的がなくなった所有者が売ることもできずに所有し続けるより、ずっといいと思います。

 

建物の評価額

 シャッター通りの旧店舗、併用住宅などは、固定資産評価額はかなりの額になることが多いですが、売ろうと思っても売れません。市場価値は、ほとんどゼロです。そんなものに、使おうと思えば使用価値はあるなどという理屈で課税するのは、酷です。

 市町村がその建物に価値を認めて課税するなら、やはり所有者が請求した場合は引き取るべきです。

 ただ、家屋の場合は、土地のように、固定資産評価額で買い取れというのは無理でしょう。無駄に高価で、使用価値の少ない建物もあるし、古い建物は取り壊し費用の分、価値がマイナスでしょう。

 家屋の場合は、市が評価額を付けて一定の価値を認めて課税しているものは無償で(土地の価格だけで)引き取ることがいいのではないかと思います。

 市町村は、請求されても引き取る気のないような建物は、評価を0にすべきです。そのようなものは、建物の取り壊しを条件に土地だけの買取(固定資産評価額で)を義務付けるべきだと思います。

 

 現在、空き家の取り壊しを所有者に促すような施策(住宅用地の課税標準の特例を非適用にするなど)が検討されていますが、上記のような対策とセットでなければ、弱者いじめ、不公正のそしりを免れないと思います。

 旧市街地を衰退させた責任は、行政にもあるわけですから。


 


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 ㈱ぎょうせいの「地方財務実務提要」は便利な本です。地方公共団体の職員が何か予算執行などについて対応に迷った場合、ヒントが見つかることも多いと思います。IMG_1070

 「○○実務提要」「○○ハンドブック」といった自治体職員が業務の参考にしている書籍の多くは、総務省の関係者などが執筆していると思いますが、ヒント、参考としてとらえるべきで、無批判に受け入れるのは危険です。

 

 契約保証金の端数計算について、これらの書籍の記載が誤っていたための混乱については、別稿「端数計算法の誤った適用」で紹介しました。

 そのほかにも、読んでいておかしいと思われる記載は、多々あります。法令の条文に立脚しない説明がされているものも多く、それらはあまり信用できません。それらについては、いずれ機会があれば述べたいと思っています。

 10数年前、知り合った自治省の若手キャリアに疑問を呈したところ、「昔からので変なのがだいぶあるんですよね・・・。」と言っておられました。

 

恩師の教訓

 大学で法律を学んでいたころ、恩師がおっしゃっていたことを思い出します。

 「学生同士が法律問題を議論しているのを聞いていると、自分の意見になっていない。○○の本にこう書いてあったなどと主張して、最後には『ほらここに書いてあるだろう』などと、本を見せ合ったりしている。〈学生一同爆笑・・・〉自分で納得して、自分の意見にしてから主張しなさい。」

 

かつての自分についての反省

 大学時代にせっかく有意義な教えを受けていたのに、若いころの私は十分に実践できていませんでした。制度の解釈に迷っているとき、「地方財務実務提要」に答えを見つけると、「一件落着!」と安心し、本当にそれでいいのか考えることを怠っていた気がします。

 

 20年ほど前から、ようやくこれらの書物を評価しながら眺められるようになりました。今も「地方財務実務提要」は便利に使っていますが、書かれていることはあくまでもヒントとして捉え、自分で考えて納得できなければ答えとして採用しないことにしています。

 

 かつての私だけではありません。多くの自治体職員は、「実務提要」などに書かれていたり、総務省の担当職員が言ったりしたことなどは無批判に信用し、自らの判断を停止している気がします。

 職場で、このブログで、一石を投じ続けたいと思います。

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 「国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律」(一般に「端数計算法」)は、地方公共団体にも適用され、自治体の予算執行の場でしばしば登場します。

 やや拡大適用される傾向にあることが気になっています。

 

端数計算法の主な部分は、次のとおりです。

(通則)

第一条  国、沖縄振興開発金融公庫、地方公共団体及び政令で指定する公共組合(以下「国及び公庫等」という。)の債権若しくは債務の金額又は国の組織相互間の受払金等についての端数計算は、この法律の定めるところによる。

 他の法令中の端数計算に関する規定がこの法律の規定に矛盾し、又はてい触する場合には、この法律の規定が優先する。

(国等の債権又は債務の金額の端数計算)

第二条  国及び公庫等の債権で金銭の給付を目的とするもの(以下「債権」という。)又は国及び公庫等の債務で金銭の給付を目的とするもの(以下「債務」という。)の確定金額に一円未満の端数があるときは、その端数金額を切り捨てるものとする。

 国及び公庫等の債権の確定金額の全額が一円未満であるときは、その全額を切り捨てるものとし、国及び公庫等の債務の確定金額の全額が一円未満であるときは、その全額を一円として計算する。

 国及び公庫等の相互の間における債権又は債務の確定金額の全額が一円未満であるときは、前項の規定にかかわらず、その全額を切り捨てるものとする。

 

ある市の混乱(契約保証金)

契約保証金は、契約を締結するに先立って、相手方が自治体に納付する保証金です。相手方が契約上の義務を履行しない場合には、自治体が没収します。各自治体の規則で、「契約金額の100分の10に相当する金額以上の金額」等と定められています。

平成28年、ある市が、契約保証金について、契約金額に100分の10を乗じて1円未満の端数を生じた場合はそれを切り上げる旨の通知を出しました。実は、その市は、数年前に、従来は切り上げていたものを切り捨てることに変更したばかりだったのです。

 この改変の理由は、端数計算法の解釈の誤りにあったのだと思います。

 実は、「地方財務実務提要」「契約実務ハンドブック」という自治体職員が参考にしている2つの書籍に、契約保証金について「端数計算に関する法律に従って、1円未満を切り捨てる」旨の誤った記載がかつてあったのです。それらの記載は、疑問に思った自治体の職員が出版社に問い合わせ、出版社を介した執筆者とのやり取りの結果、平成26年ころに削除されました。地方財務実務提要では、契約の章からは削除され、第3167節「その他諸法関係」8210頁に、正しく改められました。

 この市は、昔は正しく切り上げていたものを、書籍の記載を見て切り捨てに改め、その後、書籍からその記載が改正されたので、元に戻されたものだろうと想像しています。

 この契約保証金などは、法律を一読すれば、端数計算法の対象外であることは、明らかです。

 

我が自治体も危なかった!

 実は、私の属した自治体でも、危なかったのです。

 新任の会計職員向けのテキストの原案に「契約保証金は、契約金額に100分の10を乗じた額に1円未満の端数が生じた場合は切り捨てる。」旨の記載があり、原案作成者は前述の書籍を根拠に提示しました。書籍には確かにそのような解説されていましたが、私は絶対に誤りだと確信したので、テキスト案のその部分の記載を削除してもらいました。

 このような自治体は、ほかにもあると思います。

 

「債権」、「債務」と「確定金額」

 契約保証金は、契約しようとする者があらかじめ預託するもので、契約を断念すれば納める必要がなく、自治体から請求することもできません。自治体にとって「債権」と言っていいのか疑問です。

 「確定金額」は特に定義されていないので、一般的な国語の感覚で、「最終的に支払うべき金額として確定した金額」というくらいの意味だろうと思います。「○○以上の額」などと定められているものは、「確定金額」とは言えないでしょう。100分の10を計算して、1,111.6になったら、それ以上の額ならいくらでもいいわけで、そんなものが確定金額と言えないであろうことは法律を読んだだけで明白です。

 また、100分の101,111.6で、それ以上の額という条件なら、保証金額を最小に抑えようと思えば1,112円を保証金とすればいいわけです。この法律の必要性、出番はありません。

 このほか、端数計算法を根拠に、計算の途中の過程で端数切り捨てをする人もいますが、それも、法律の適用を誤っています。

 「端数計算法の誤った適用2」

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