地方自治日記

地方自治に誠実に取り組んできた県職員OBです。県の市町村課に長く在職したほか、出納局、人事委員会などのいわゆる総務畑が長く、自治制度等を専門分野としてきました。県を退職後も、時々、市町村職員などの研修で、自治制度、公務員制度、文書事務などの講義もしています。 単に前年どおりに仕事をすることが嫌いで、様々な改革・改善に取り組んできました。各自治体の公務員の皆様には、ぜひ法令を正しく合理的に解釈し、可能な限り効率的、効果的な行政運営をしていただきたいと願っています。

2018年04月

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 仕事内容は同じなのに定年後の再雇用で賃金を減らされたのは違法だとして、横浜市の運送会社の契約社員(運転手)3人が正社員との賃金差額を支払うよう同社に求めた訴訟が最高裁で争われています。運転手側は逆転敗訴した2審判決の破棄を求め、会社側は維持を求めています。最高裁第2小法廷では弁論も行われ、6月1日に判決が予定され、注目されています。

 

争点は

1審は、「仕事内容が同じなのに賃金格差を設けることは、特段の事情がない限り不合理」として会社側に約415万円の支払いを命じました。これに対して2審の東京高裁は、減額幅は2割程度で同規模企業の平均より小さいとし、その上で「定年後の賃下げは広く行われ、社会的に容認されている」として、地裁判決を取り消しました。

3月には、北九州市の食品会社でのトラブルについて最高裁で、定年を迎える社員に、再雇用(継続雇用)の条件として、仕事をパートタイムとした上で賃金を25%相当に減らす提案をしたのは不法行為にあたるとして、会社に慰謝料100万円の支払いを命じた高裁の判決が確定しています。判決の中で、再雇用については「定年前後の労働条件の継続性・連続性が一定程度確保されることが原則」との判断が示されています。

 

今の流れでは、定年後の再雇用では、ある程度の賃金ダウンは容認されるのでしょう。運転手などのように、定年前後で仕事内容にほとんど変わりがない場合、どの程度のダウンまでが許容されるかが、一つの注目点でしょう。

 

地方公務員にも影響?

 地方公務員の再任用の場合、再任用後は、責任の程度が軽い職務に替わることが一般的です。そのようなケースについては、あまり問題にならないと思います。

 自治体によっては、再任用後に定年前の役職にそのままとどまるような再任用も時々行われています。そのような場合でも、給料は25%くらい下がることが多いようです。

 最高裁の判断によっては、影響を受けるかもしれません。

 

日本は年齢差別に寛容

 アメリカでは、年齢差別禁止法によって、定年制も原則として禁止されているようです。採用時の年齢制限など、禁止されていることはもちろんです。

 一方、日本では、採用時の年齢制限の禁止は非常に緩く、いわゆる正規社員、正規職員の採用は、キャリアを積み重ねる必要性などから、広く容認されています。定年制が一般的であることは、もちろんです。さらに、定年後の再雇用において、賃金をかなり下げることも一般的に行われています。

 

 日本のこの緩さは、憲法に由来しているのかもしれません。憲法第14条は、「年齢」での差別の禁止を明示していません。

 

 日本国憲法第14 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

 

 定年のある社会と、定年のない社会。私は、どちらかというと、定年があって責任に一区切りつけられる社会の方が、気に入っています。

 

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 森友学園加計学園の問題で、識者が様々な意見を言っています。その中には、行政職員の目から見て、おかしな論旨のもの、無理な理屈付けのものも散見されます。

 安倍政権寄りの主張、アンチ安倍政権側の主張から、一つずつ拾ってみます。

 

「一点の曇りもない」

 国家戦略特区ワーキンググループの委員が、「規制改革のプロセスに一点の曇りもない」と言ったことをもって、加計学園の選定手続等が適正に行われたと主張される方々がいます。

しかし、このような検討作業は、事務局が用意した資料に沿って進められるのが通例です。事務局がその気になれば、議論の方向を誘導することは、それほど難しいことではありません。委員さんが、「一点の曇りもない」と思われたとしても、事務局が巧妙に誘導していたかもしれません。

事務局が一方に肩入れしていたのではないかと疑われている状況下では、委員さんが「一点の曇りもない」と言われたとしても、適正に行われた証拠にはならないのです。

 

「愛媛県には嘘を書く動機がない」?

 野党や様々な識者が、「愛媛県の職員には嘘の文書を書く動機がないから、あの文書に書かれていることは真実だ。」と主張されています。

 私もあの文書は真実だとは思いますが、愛媛県の職員に嘘を書く動機がないと言われると、それは違うと思います。加計学園の計画を首相が応援していると思わせれば、各省庁も抵抗はできず、計画に有利になります。愛媛県は、今治市、加計学園の計画を支援していたのですから、文書に首相が支援しているかのような嘘を書く動機はあると思います。

 現に、あの文書は関係省庁に配られ、そのような使われ方をしているようです。

 

 議論に参加しようとしている人たちは、私も含め、どちらかの見方に影響され、考え方が歪んでしまうことは避けられないものかもしれません。


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 新たに自治体に採用された職員に対する研修の時期になりました。私も、「地方公務員制度」などの講師を引き受け、準備に追われています。

 

 地方公務員制度の講義に際して、必ず教えるべき分野に、「職員の義務」があり、その中に地方公務員法第32条の法令等及び上司の職務上の命令に従う義務」があります。

(法令等及び上司の職務上の命令に従う義務)

第32条 職員は、その職務を遂行するに当つて、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。

 

 「地方公務員フレッシャーズブック」は、解説の中で、有効な職務命令の要件として、①権限ある上司から発せられていること、②職員の職務に関するものであること、③内容が法令上又は事実上の不能を命ずるものでないこと3つを挙げています。また、「職務命令に重大かつ明白な瑕疵がある場合(この場合は職員は自ら職務命令の無効を判断することができ、これに服することを要しないのみならず、服してはいけません。)のほかは、職務命令は、一応適法の推定を受け、命令を受けた職員を拘束する効力を有します。」と説明されています。通説に沿った一般的な解説です。

 

森友学園問題は説明材料の宝庫

 上司からどのような命令があった場合に、それに服してはならないか、服した場合にどんなひどい目にあう可能性があるか、それを新採用職員に話すとき、例を挙げて説明するには、森友学園の一連の問題は、格好の教材です。市の土地を不当に安く、市長のお友達の会社に売却するよう上司から頼まれたとか、アレンジもできます。

 

 制度を説明することは簡単ですが、実際の場面でそれを拒むことは、なかなか難しい場合もあるでしょう。新採用の職員にはその難しさも良く説明し、いざというときに対応を誤らないようお願いしようと思います。


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 4月の勤務の初日、多くの地方自治体では、新たに採用された職員の「服務の宣誓」が行われます。これは、地方自治法第31条に基づき、各自治体の条例で定められています。

地方公務員法第31条(服務の宣誓)

 職員は、条例の定めるところにより。服務の宣誓をしなければならない。

 

 この規定に基づき、全地方公共団体は、「職員の服務の宣誓に関する条例」を定めており、その条例の規定に従って宣誓が行われます。

私の関係する団体の条例では、「新たに職員となったものは、任命権者又は任命権者の定める上級の公務員の立会のもとにおいて別記様式による宣誓書に署名押印してからでなければ、その職務を行つてはならない。」と定め、別記として次の様式が定められています。この規定内容、宣誓文等は、どこの地方公共団体も似たようなものです。

宣誓書

 私は、ここに、主権が国民に存することを認める日本国憲法を尊重し、かつ、これを擁護することを固く誓います。

 私は、地方自治の本旨を体するとともに公務を民主的、かつ、能率的に運営すべき責務を深く自覚し、○民全体の奉仕者として誠実、かつ、公正に職務を執行することを固く誓います。

    年  月  日

氏名 印

 国家公務員について政令で定められている宣誓文は、地方よりやや短く、次のとおりです。

私は、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき責務を深く自覚し、日本国憲法を遵守し、並びに法令及び上司の職務上の命令に従い、不偏不党かつ公正に職務の遂行に当たることをかたく誓います。」

 

日本国憲法遵守は一般職公務員の義務だが

 このように、一般職の公務員は、日本国憲法を遵守すること、公正であることを固く誓わされています。国家公務員については、不偏不党であることも誓ったはずです。

 昨今の財務省の問題、文部科学省の名古屋市教委への問い合わせ問題など、誓いを忘れてしまったとしか思えないふるまいが目につきます。

 政権自体が、野党から憲法に基づいて臨時国会召集の要求が出されても無視したり、自衛隊を海外の戦闘地域に派遣したりしている状況では、一般職公務員にばかり憲法遵守を求めても効果がないかもしれません。

 

 首相を始め、各大臣には、毎朝、執務前に宣誓してもらうこととすれば、あまり恥ずかしいことはできなくなるのではないかと思うのですが・・・。


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 9割を超える地方公共団体が、職員採用試験について公益財団法人日本人事試験研究センターから試験問題の提供を受けています。このセンターの提供する教養試験の問題が、平成30年度から様変わりし、地方公共団体は今、選択を迫られています。

 

多様な人材への対応

 従来の試験は、教養1(大卒程度)教養2(短大、高専卒程度)教養3(高卒程度の一般)教養4(高卒程度で思考力等を重視)の4つでした。

 それが、年3回の統一試験日(722日、9月16日、1014日)に限り、次のような5種類が提供されます。

 Standard - 1 ・・・ 従来の教養1と同傾向、同難度

 Standard - 2 ・・・ 従来の教養2、3と同傾向、同難度

 Logical - 1 ・・・・ 大卒程度で、知識より思考力等重視

 Logical - 2 ・・・・ 高卒程度以上で、知識より思考力等重視

 Light ・・・・・・・ 基礎的な知識と思考力等重視

 

 つまり、学校での勉強で得た学力よりも地頭(じあたま)を重視するタイプを加えたということです。さらには、公務員試験向けの勉強をしていない民間志向の学生などにも受験してもらうことを狙ったものです。

 

各自治体の判断は?

 現在、民間の景気が好調なことから、公務員人気が衰えている傾向にあります。受験者確保に苦労している自治体も多数です。

 Logicalの方が受験しやすいでしょうから、受験者確保を狙うならそちらを選びたくなると思います。かといって、コツコツと公務員試験向けの勉強をしてきた真面目な学生も確保したい気持ちもあるかもしれません。

 同じ団体で、採用枠を決めて複数のタイプの試験を実施する団体も出てくるでしょう。

 各団体で、どんな人材を確保したいか、作戦を練らなければなりません。

 

受験者の判断は?

 判断を迫られるのは、自治体だけではありません。従来は、同じ試験日ならどこの団体を受けても同じ試験問題という状態だったわけですが、平成30年度からは受験団体によって問題のタイプが異なります。募集要項に記載されている試験の出題内容や求める人材像の表現ぶりから、各自治体がどのタイプの問題を使用するのかを読み取ることができるでしょうか?
 受験者にとっても、どの団体を受験するか、判断に迷う要素が増えたといえそうです。

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