地方自治日記

地方自治に誠実に取り組んできた県職員OBです。県の市町村課に長く在職したほか、出納局、人事委員会などのいわゆる総務畑が長く、自治制度等を専門分野としてきました。県を退職後も、時々、市町村職員などの研修で、自治制度、公務員制度、文書事務などの講義もしています。 単に前年どおりに仕事をすることが嫌いで、様々な改革・改善に取り組んできました。各自治体の公務員の皆様には、ぜひ法令を正しく合理的に解釈し、可能な限り効率的、効果的な行政運営をしていただきたいと願っています。

2019年10月

 神戸市の小学校で教諭4人が同僚にいじめをしていた問題で、神戸市は加害教員4人に年次有給休暇を取得させて休ませています。この給与支給について市民から批判され、市ではこのような場合に給与を差し止める新たな条例の制定を急いでいるとの報道がありました。

この問題は、多くの自治体も苦慮する問題で、私も悩まされたことがあります。

 

一般的な現行制度

刑事起訴されれば休職処分(起訴休職)にできますが、その前の段階で職場に来させない措置は、地方公務員法では想定していないのです。また、起訴休職の場合の給与について地方公務員法は何も規定しておらず、多くの自治体では、国家公務員に合わせて給与条例で「給料、扶養手当、地域手当及び住居手当のそれぞれ100分の60以内を支給することができる」等と定めています。「できる」ですから、事情によっては支給しないこともできます。

地方公務員法

 第二十七条 すべて職員の分限及び懲戒については、公正でなければならない。

2 職員は、この法律で定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、若しくは免職されず、この法律又は条例で定める事由による場合でなければ、その意に反して、休職されず、又、条例で定める事由による場合でなければ、その意に反して降給されることがない。

28条 (第1項 略 降任、免職に関する規定)

2 職員が、左の各号の一に該当する場合においては、その意に反してこれを休職することができる。

一 心身の故障のため、長期の休養を要する場合

二 刑事事件に関し起訴された場合

3 職員の意に反する降任、免職、休職及び降給の手続及び効果は、法律に特別の定がある場合を除く外、条例で定めなければならない。

 

 苦肉の策として職員に有給休暇を取得させるわけですが、職員が拒否すれば不可能です。その場合、どうしても職場に来させないようにするには、職務命令で自宅待機を命ずることになり、年次休暇も使わずに休ませて給与は全額支給しなければなりません。

 

神戸市の新条例に注目

 従来の制度がこのようになっているのは、推定無罪の原則からでしょう。また、起訴休職とのバランスを考慮する必要があり、起訴されたときより厳しい処分は難しいと思います。

 1028日に神戸市議会で可決成立した改正条例では、「職員の分限及び懲戒に関する条例」で本人の意に反して休職させられる場合に「重大な非違行為があり、起訴されるおそれがあると認められる職員であつて、当該職員が引き続き職務に従事することにより、公務の円滑な遂行に重大な支障が生じるおそれがある場合」を加えました。あわせて、給与条例も改正し、この場合には「給料、地域手当、扶養手当及び住居手当のそれぞれ100分の60以内を支給し、又は支給しないことができる。」としました。要は、起訴休職と同列の扱いにしたものであり、バランス的にはこの辺が限界でしょう。

 

 その時点で判明、確定している事実だけで懲戒免職に相当するなら、裁判での有罪確定等を待たずに速やかに懲戒免職処分をすればいいのでしょうが、それが困難なケースも多いでしょう。

 神戸市の今回の条例は、全国に広がるかもしれません。ただし、最終的に不起訴とか無罪になる可能性もあるので、運用を慎重にしないと違法とされることもあると思います。人事担当部局が判断に迷う場面もあるでしょう。


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 1017日、2020東京オリンピックのマラソンと競歩が、札幌での開催に変更する旨、IOCが決定事項として発表しました。IOCは、前日の16日に「検討している」と発表し、翌日には決定事項になっているという不自然さです。

 私は、どちらにしても観に行く予定はなく、テレビ観戦なのでどちらでもいいのですが、これまで東京で行う予定で準備してきた選手、関係者が気の毒すぎます。特に、準備に携わってこられた東京都の職員の皆様などは悔しいでしょう。

 札幌だって夏は猛暑の日もあり、東京で早朝5時から行ったほうがリスクが少ないような気もします。

 

組織委の責任は?

 IOCの会長は、「東京の組織委員会と合意した。」と言っています。また、報道によると、組織委の一部の幹部は、変更の検討について知っていたようです。現地の状況なども把握していなければならないので、IOCだけで判断できることではありません。

 一生懸命に準備している東京都などと事前の調整もなく、勝手にIOCとこのような合意をしたのであれば、責任を追及されなければなりません。誰がどのような判断で合意したのか、その経緯の解明が必要です。

 

後味が悪すぎる

 IOC会長の「決定事項だ」という反論を許さない高圧的な発表に、反感を持った人は多いと思います。五輪に水を差す非常に後味の悪いものでした。東京都などの反撃を封じようとするものなのでしょう。

 これも組織委の不手際です。組織委の森会長には、不手際が多すぎます。

 サマータイムなどと馬鹿なことを言い出して混乱させ、結局は失笑されています。

 「サマータイム議論に終止符か?」 参照

 

 今回の件にしろ、常識的な配慮ができない方なのかと思います。今回の混乱の責任を取り、本番前に人望のある適任者に道を譲られるほうがいいのではないかと思います。

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 あいちトリエンナーレの「表現の不自由展」をめぐり、議論が続いています。補助金交付の取り止めをめぐり、愛知県が国に不服申立書を提出したとも報じられました。

 芸術、文化などのソフト事業に対して公的な支援をすることは、非常に難しい場合があることを感じます。

 

許容される表現か、ただのヘイトか

 特に問題になっているのが、慰安婦像と、昭和天皇の写真を燃やしてその灰を踏みにじる映像の二つのようです。こんなものが「芸術」ではないことは当然ですが、何らかの表現として認められるものか、許されない「ヘイト」なのかという問題でしょう。

 その二つに何らかのメッセージがあるとすれば、露骨な悪意だけでしょう。他人を傷つけるだけの作品は、ヘイトスピーチと同じです。

 昭和天皇の写真の方のは、単なる憎悪の表現です。一方、のっぺりした顔の美的とは思えない少女像は、日本軍などが朝鮮半島で女性を強制連行して慰安婦にしたなどという荒唐無稽な嘘を流布するために韓国が使っている象徴です。作者が、わざとあの虚偽を広めるための像と同じに作っておきながら、平和を祈念するものだなどと言っても誰も信じません。

 いずれも相手の心を傷つけようとする悪意に満ちたもので、「表現の自由」の名の下に保護すべきようなものではないと思います。ヘイトスピーチと同レベルのものです。

 

公的支援はもっての外だが

 このような作品が含まれているならば、国や地方自治体が支援すべきでないことは当然です。愛知県の担当者、決裁権者は、承知していたのでしょうか?

 公務員だった私の感覚からすれば、事前に承知していたら認めるはずがないと思います。もう後戻りできない段階になってから知らされたのではないかと疑っています。それでも引き返すべきだったと思いますが・・・。

 文化庁も同様です。愛知県が、あのような内容が含まれることを文化庁に黙秘して補助採択を受けたのか、愛知県担当者も知らなかったのか、いずれかではないかと思います。確信犯ではないでしょう。
 しかし、一度行った補助採択を取り消すことは、大変なことであり、余程の事情がなければ認められるべきではないでしょう。そんな事情が認められるかどうか、難しいところです。

 

 審査のずさんさを非難することは簡単ですが、この手のものはあまり内容に立ち入って審査すると「検閲」と言われてしまいます。実施側の責任者がよほど信用できる人物でない限り、このようなソフト事業を国や地方自治体が支援するのは難しいことでしょう。

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 在職老齢年金とは、厚生年金を受給できる人(公務員や会社員だった人)がまだ厚生年金の対象事業所(国、自治体も含む。)に勤務して一定以上の報酬を得ていた場合に、受け取る年金額が減額調整される制度です。65歳以上の人の場合と、65歳未満の人では、調整の計算に差があります。

 

特別支給の老齢厚生年金

厚生年金を受けられるのは、現在は原則として65歳からですが、支給開始年齢が65歳に引き上げられた時の経過措置として、男性は昭和3641日まで、女性は昭和4141日までに生まれた人は、その前に従前の報酬比例部分等を受給できます。これを「特別支給の老齢厚生年金」といいます。

昭和30年度に生まれた私の場合は、これを62歳から受給する資格はあったのですが、在職老齢年金制度による調整のため全額が停止されています。

 

現在議論されている見直し案

在職老齢年金の制度は、年間の給与(賞与等を含む。)の12分の1の金額(総報酬月額等)と基本的な厚生年金の月額(基本月額)によって、調整されます。現行制度では、65歳未満ではこの両者の合計が28万円を超えると調整(減額)が始まり、65歳以上では47万円を超えると調整が始まります。

今年6月に骨太の方針で、在職老齢年金制度の廃止の方向が出された際、私は廃止ではなく、見直しにすべきという意見をこのブログで綴りました。

「在職老齢年金は廃止ではなく、見直しを」 参照

 

 現在、廃止ではなく見直しの方向で進んでいますが、65歳以上も未満も、総報酬月額等と厚生年金の基本月額の合計が62万円を超えると調整開始とする見直し案が有力のようです。私は、この見直し案は、元高級官僚や大企業管理職OBなどの高所得者層を優遇しすぎだと思います。

 

65歳以上の47万円は見直す必要があるか?

 65歳未満で、28万円から調整されてしまうのは、たしかに勤労意欲を削いでしまうので、見直す必要があります。しかし、65歳以上の47万円はどうでしょうか?

 65歳以上で月収47万円ある人は極めて恵まれた少数派です。明らかな勝ち組高齢者です。これをさらに優遇することは格差拡大を助長することになり、そんな必要はないと思います。

 65歳以上も65歳未満も、47万円に統一するくらいが妥当ではないかと思いますが・・・。

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 201910月から消費税率が原則10%に引き上げられましたが、問題噴出で、半月以上たった今も混乱が続いています。混乱はいずれ収まるでしょうが、不公平感は制度が続く限り続くでしょう。

 私は消費税引き上げ自体には反対ではありませんが、制度設計のまずさにあきれています。やはり、生活感覚のない上級国民の皆さんが机上で政策を立案しても、うまくいかないのでしょう。

 

最大の愚策「軽減税率」

 中でも、軽減税率は、不合理、不公平で、最大の愚策です。二つの税率を使い分けなければならなくなり、社会的な負担、非効率も甚だしいようです。

 「イートイン脱税」などという新語も登場しました。持ち帰ると申告して8%の軽減税率の適用を受けながら、実際は店内のイートインコーナーで食べることです。持ち帰ろうと思っていたけど気が変わったということもあるでしょうし、取り締まりようがないでしょう。

 不合理なアンバランスがあるところには、必ずこのような裏技が登場します。そういう行為に走らせるような制度、正直者が馬鹿を見るような制度は、失敗作です。

 軽減税率の不合理さは、初めから分かっていたことです。大手マスコミが批判しなかったのは、新聞を軽減税率の対象にした不公平な対策が功を奏したのでしょう。

 

ポイント還元などの不公平

 イオンの岡田社長が、消費税増税緩和のためのポイント還元制度について、「めちゃくちゃで暴力的」と批判しました。私は知らなかったのですが、日本チェーンストア協会など小売業界の4団体は9月の時点でポイント還元策について「官製の価格引き下げ競争策」として不満を表明した連名の意見書を経済産業省に提出していたようです。コンビニが対象になり、大手スーパーが対象にならないのは、たしかに不公平です。

 小売店の間で不公平なのはもちろん、消費者の間でも不公平です。我が家の近所に数軒ある地元資本のスーパーチェーンも、大手扱いで、対象外のようです。高齢者等では、現金以外は不慣れで使えない人も少なくありません。

 プレミアム付き商品券も、本当に生活困難な人は、そんなものを買う余裕もないようです。

 

 このような批判の声は、以前からありました。強行されてしまったのは、現政権が、人々の批判の声に耳を傾ける姿勢にないからでしょう。

 そのうち、今回の消費税引き上げの混乱が、ハーバードの教材に「意思決定の失敗」事例として取り上げられるかもしれません。

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