サイト案内(目次)へ

 この作品も、全体のストーリーは面白く、前半は楽しく読んでいたのですが、犯罪に至るお膳立てが解き明かされるあたりから変なところが目立ちました。

 その中でも、悪者側の意向に沿った選挙行動をする新住民を作るお膳立てが根幹だと思いますが、その部分がでたらめで、作品内でも矛盾があります。

 

1か月居住しても選挙権は得られない

 悪者側が東京の山谷などから1か月の約束で人を集め、プレハブ住宅に住まわせるのですが、1か月居住しただけでは選挙権は得られません。引き続き3か月の居住が必要です。ここは完全なうっかりミスかと思います。

 物語終盤で村長選挙が行われますが、その選挙は、ちゃんと前村長の辞職後50日目に行われています。その選挙では、集められた新住民も投票したことになっており、前の1か月の約束で集められたことと矛盾してしまっています。

 

それ以外のおかしな部分

 プレハブ住宅にガス、水道、電気が、隣接の長野原町(北軽井沢)から嬬恋村役場に無断で引かれたことを役場の課長が不思議がっているが、水道と電気などは全く性質が異なる。電気は、東京電力が行政区画とは無関係に供給体制をとるので、役場に申請がなくても不思議ではない。

 水道は、市町村が事業主体であることが原則であり、他の自治体から供給を受けるには、自治体同士の「事務の委託」契約が必要である。地元自治体に無断で隣接自治体が供給することは、ありえない。

 村の一部を「新嬬恋村」という名称に変更することについて不動産業者が群馬県庁に申請しているが、村内の地名変更に県の許可など必要ない。

 最後の場面で、北軽井沢との境界沿いに10メートル幅で帯状に土地を購入しているが、そんなことをしようとすれば境界確定、測量、分筆登記等が必要で、多くの時間と費用が必要。簡単にできることではない。

また、新村長が就任直後にそのような予算が計上してあったはずがなく、まずは予算の編成、議会での議決が必要である。さらに、一般に町村が5000平方メートル以上の土地を700万円以上で購入するときは、予算議決とは別にあらかじめ議会の議決も必要であり、議会が知らないうちに購入することは、ありえない。

 10メートル幅の土地を隣接のA村に買ってもらえることになっているが、A村がそんな土地を高額で購入するメリットが考えられない。また、土地の所有権と、その土地をどの自治体に帰属させるかは、別問題であり、A村に帰属させるためには別にA村に買ってもらう必要はない。

 

  水道がなければ人は住めないので、水道の問題はこのお膳立ての根幹にかかわっています。ここには、別のお膳立てが必要でしょう。他の多くは、単純ミスと思われ、出版社、編集者がまともにチェックしていれば、防げたはずだと思います。西村氏の名声をもっと大切にしていただきたいと思います。

 西村京太郎氏の近年の作品が変だ1 「札沼線の愛と死・・・」に戻る
 西村京太郎氏の近年の作品が変だ4 「十津川警部 北陸新幹線「かがやき」の客たち」に進む

 にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村 ご覧いただきありがとうございます。


スポンサードリンク