地方自治日記

地方自治に誠実に取り組んできた県職員OBです。県の市町村課に長く在職したほか、出納局、人事委員会などのいわゆる総務畑が長く、自治制度等を専門分野としてきました。県を退職後も、時々、市町村職員などの研修で、自治制度、公務員制度、文書事務などの講義もしています。 単に前年どおりに仕事をすることが嫌いで、様々な改革・改善に取り組んできました。各自治体の公務員の皆様には、ぜひ法令を正しく合理的に解釈し、可能な限り効率的、効果的な行政運営をしていただきたいと願っています。

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  役所が41日から必要なサービスの調達について、41日付けで締結しても、目くじらを立てるほどのことはないと思われるかもしれません。実は、多くの弊害があるのです。


弊害1 未契約の状態で役務の提供を受ける不適正が発生

 実際に41日付けで契約を締結するとしても、午前0時に締結できるはずがありません。午前0時から、担当職員や決裁権者が登庁して契約を締結するまで、契約が途切れます。契約書への両者の記名押印が契約の確定要件とされているところが、民間との違いです
 (別稿参照:
41日の奇跡 虚偽公文書作成、大量発生の予感」)


 庁舎の警備や、施設等の保守管理を途切れさせることは考えにくいので、未契約の状態で役務の提供を受けるという不適正な状態が発生します。

 

弊害2 業者との癒着が発生

 41日付けで契約しようとすると、口約束(=未契約)の状態で役務の提供を受けるほか、3月中に業者に機器の設置等の準備をさせ、3月中に41日付けの見積書をもらったりします。一種の共犯のようなもので、気心の知れた業者との癒着というべき関係です。

 軽い癒着かもしれませんが、この癒着に慣れてしまうと、もっと悪質な癒着、例えば、複数の業者との競争に付すべき案件を1者に任せきりにしてしまうなどを発生させる温床になります。

 

弊害3 適正な競争が阻害され、効率的な予算執行が妨げられる

 十分な準備期間があれば複数の業者が参入できるはずの契約が1者に独占され、割高になってしまいます。

 

弊害4 虚偽公文書作成罪を犯してしまう職員を生じさせる

 41日が土曜日、日曜日だったり、多忙で契約の締結などをやっている暇がなく、実際は43日頃に記名押印、交換した契約書の日付を41日に遡った場合、公務員の場合は犯罪行為です。(別稿参照:「41日の奇跡 虚偽公文書作成、大量発生の予感」)

 41日付けで契約することを常態としている場合、この犯罪を誘発します。

 実は、筆者が以前勤務していた職場では、多忙だったため、4月の末くらいまでこのような決裁書類がたくさん回っていました。

 

弊害5 職員の遵法意識を損なう

 欺瞞に満ちた事務処理を繰り返し、弊害2、弊害4で指摘したようなことが続くと、職員の遵法意識が次第にマヒします。そして、ついには、日付を偽ることなどを何ら罪悪感もなく行ってしまう職員ができあがります。

 過去には、履行検査の日付をごまかすなどしていた不祥事がたくさん発生しています。

 

弊害6 非効率な事務執行

 41日に契約することを常態とする場合、3月下旬から4月上旬に過度に事務が集中し、時間外勤務が増えたり、ミスが発生したりします。

 特に、41日は多くの団体で人事異動があり、着任したばかりの担当者の名前で起案を回し、着任したばかりの決裁権者が何も分からないままハンコを押すというバタバタ劇になります。こういう事務処理は、事情の分かった前任者が適正かつ効率的に処理しておけばいいのです。41日付けで行うのは、新年度の支出負担行為額の整理だけでよく、これは単なる整理の問題なので、必ずしもその日にやる必要はありません。

 

 一方、法令を条文の文言通りに運用し、前年度中に契約した場合の弊害は、特に思いつきません。また、41日付けで契約することのメリットも、特に思いつきません。

条文の文言通りの運用だから、違法な処理だなどと言われる心配もなく、もし法令を知らない人がそんなことを言ったとしても、簡単に反論できます。訴訟になどなるはずがありません。

 どちらを選択すべきかは、明らかだと思います。

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 わざわざ「公式」を強調したのは、総務省の担当部局が、電話による回答などの際に、対外的に文書で公表された見解と異なることを言う場合がかなりあるからです。また、地方公共団体が文書による回答を求めても、頑なに拒否するようです。そんな電話回答は、公式見解、有権解釈に値しません。

 長期継続契約の運用、解釈について、総務省から文書で表明されているのは、私の知る限り、次の二つです。いずれも、平成293月時点でも国のホームページ上で公開されています。


草加市からの「入札等の契約準備行為だけでも前年度中に行うことを容認してほしい」との特区要望についての総務省の対応措置案  〈平成16年7月23日内閣府集約〉

   「入札の公告等又は契約の締結は予算執行の手続きに含まれるものであり、事業執行年度の前年度においてこれを行うことはできないが、現在、長期継続契約の対象範囲の見直しを検討しているところであり、それによって長期継続契約の対象となれば、債務負担行為の設定によることなく、事業年度前の入札または公告等又は契約の締結が可能になるものと考えられる。」


平成161110日付け各都道府県知事あて総務省自治行政局長通知

「地方自治法の一部を改正する法律等の施行について(通知)」(抜粋)

  長期継続契約を締結することができる契約の対象範囲の拡大関係(令第167条の17関係)

  (1) 法第234条の3で具体的に規定されている電気、ガス若しくは水の供給若しくは電気通信役務の提供を受ける契約又は不動産を借りる契約のほか、長期継続契約を締結することができる契約として、翌年度以降にわたり物品を借り入れ又は役務の提供を受ける契約で、その契約の性質上翌年度以降にわたり契約を締結しなければ当該契約に係る事務の取扱いに支障を及ぼすようなもののうち、条例で定めるものとされたこと。

  (2) 上記(1)に該当する契約としては、商慣習上複数年にわたり契約を締結することが一般的であるもの、毎年4月1日から役務の提供を受ける必要があるもの等に係る契約が対象になるものであること。例えば、OA機器を借り入れるための契約、庁舎管理業務委託契約等が想定されるものであること。

  (3) 上記(1)の契約の締結に当たっては、更なる経費の削減やより良質なサービスを提供する者と契約を締結する必要性にかんがみ、定期的に契約の相手方を見直す機会を確保するため、適切な契約期間を設定する必要があることに留意すべきものであること。

 改正法はH16.5.26公布、政令はH16.11.8公布、施行はいずれもH16.11.10

 

 この2つの文書が、長期継続契約についての2つの論点、「長期(一定以上の期間)の契約であることを要件としているか」「事業実施年度開始前の契約を容認しているか」について、どういう立場を取っているか見てみましょう。

 

「長期(一定以上の期間)の契約であることを要件としているか」
 いずれの通知でも、長期の契約であることを求めているような文言はありません。
 また、施行通知6(2)では、加える契約の例示として、「商慣習上複数年にわたり契約を締結することが一般的であるもの」と「毎年4月1日から役務の提供を受ける必要があるもの」を並列で対等に並べています。つまり、「商慣習上複数年・・・」とは別に、「毎年4月1日から・・・」という範疇の契約を加えています。当然、「毎年4月1日から・・・」の契約の方は、商慣習上複数年で契約することが一般的じゃなくてもいいわけです。毎年41日からの契約を毎年繰り返すような契約を加えることを明示しています。

「商慣習上複数年・・・」の方も、一般的には複数年で結ぶ種類の契約であることを求めているだけで、個々の契約で複数年ではないものを排除していません。「一般的であるもの」とし、例外的に短期間のものも想定したうえで、それらも含めて長期継続契約の対象にしているのです。

また、63)では、あまり長期にしないようにくぎを刺しています。

どう読んでも、長期(一定以上の期間)の契約であることを要件と考えていないことは明白です。

 

「事業実施年度開始前の契約を容認しているか」

 対応措置案では、「長期継続契約の対象となれば、債務負担行為の設定によることなく、事業年度前の入札または公告等又は契約の締結が可能になる」と言っており、事業実施年度開始前の契約を明確に容認しています。

 施行通知では、加える契約として、「毎年4月1日から役務の提供を受ける必要があるもの」を例示しています。この種の契約は、通常、4月1日の午前0時から役務の提供を受ける必要があるものも多く、前年度中に契約を済ませておく必要があります。

 つまり、長期継続契約が事業年度の開始前に契約できるのでなければ、この種の契約を長期継続契約に加える意味がなく、この施行通知も、対応措置案と同様、事業実施年度開始前の契約を容認していることは明らかです

 このように、総務省が「公式に」表明している見解では、長期継続契約は年以上の期間のものでなければならないとか、41日からの契約でも前年度中に契約を結ぶことは認められないという解釈を採っていないことは明らかです。

 公式な文書ではこのように表明していながら、地方公共団体が照会するとこれに反する回答をするとすれば、組織としてあまりにもお粗末と言わざるをえません。

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 長期継続契約でも、41日からの契約であれば、41日付けで契約しなければならないという運用をしている自治体は、非常にたくさんあります。3月中の契約を容認している理性的な自治体はむしろ少数派で、ほとんどの団体が、41日付けで支出負担行為の起案、決裁、見積書徴取、締約締結をするという、欺瞞に満ちた離れ業をやっています。

 そんな運用の背景には、「長期継続契約といえども契約締結年度における歳出予算の裏付けがない契約まで認められるわけではない。」、つまり、歳出予算の効力が発生する41日以降でなければ契約できませんよという、誤った見解があります。

この見解は、この議論のときには必ず出る見解ですが、次の理由で明らかに誤りです

 

1 一つは、純粋な条文の解釈です。地方自治法、施行令の該当条文を見ると、歳出予算等の裏付けがなくても翌年度以降にわたって一定のサービスを受ける契約の締結を認めると言っているだけで、契約を締結するときだけは歳出予算の裏付けが必要だなどと解釈できる文言はありません。

  例えば3年契約であれば、翌々年度の歳出予算の裏付けは全くなくても契約できます。なぜ支出予定もない契約締結年度(事業開始の前年度)の予算の裏付けだけ問題にするのか、条文上の根拠もなく、そんな運用をする意味もありません。

 

自治法第214条(債務負担行為) 歳出予算の金額、継続費の総額又は繰越明許費の金額の範囲内におけるものを除くほか、普通地方公共団体が債務を負担する行為をするには、予算で債務負担行為として定めておかなければならない。

自治法第234条の3(長期継続契約) 普通地方公共団体は、第214条の規定にかかわらず、翌年度以降にわたり、電気、ガス若しくは水の供給若しくは電気通信役務の提供を受ける契約又は不動産を借りる契約その他政令で定める契約を締結することができる。この場合においては、各年度におけるこれらの経費の予算の範囲内においてその給付を受けなければならない。

自治令第167条の17  地方自治法第234条の3に規定する政令で定める契約は、翌年度以降にわたり物品を借り入れ又は役務の提供を受ける契約で、その契約の性質上翌年度以降にわたり契約を締結しなければ当該契約に係る事務の取扱いに支障を及ぼすようなもののうち、条例で定めるものとする。

 

2 二つ目は、債務負担行為との比較です。自治法では、長期継続契約は債務負担行為の例外として、債務負担行為の手続を取らずに、同様の効果がある制度として規定されており、債務負担行為で認められることが長期継続契約で認められないとすれば何らかの条文上の根拠が必要ですが、そんなものは見当たらないことです。

  債務負担行為について、事業年度の開始前に契約できることを否定する人は皆無で、早期着工などのために頻繁に行われています。長期継続契約の場合はダメというなら、その条文上の根拠はどこでしょうか?見当たりません。

 

2 三つめは、歳出予算の意味です。歳出予算は、執行していい上限額を設定するもので、個々の契約の可否を決定するものではありません。個々の契約については、特に運営費的な費目は、総額の範囲であれば、裏付けがあるともないとも言えないのが正確なところです。

 

4 四つ目は、法234条の3の後段で、「各年度におけるこれらの経費の予算の範囲内においてその給付を受けなければならない。」と規定されており、歳出予算の裏付けの有無などを問題にしないことを宣言していることです。予算がなければ、給付を受けないだけのことで、契約締結には影響しません。

 

 このような誤解が生じている理由の一つに、総務省が特区の議論の際に表明している「普通地方公共団体が行う支出負担行為及び予算執行については、議会の承認を得ない単年度主義の例外はない。」という見解にあると思います。この見解を根拠に、「債務負担行為は議会の承認があるからいいが、長期継続契約はダメ」という誤解をしておられる方もいます。

 しかし、平成16年の改正で範囲が拡大された契約は、条例で指定することと定められており、つまり議会の包括的な承認のもとに単年度主義の例外扱いされているものです。議会の承認の有無を問題にするのは、見当はずれです。

 

 長期継続契約についての総務省の「公式」見解については、別稿で検証します。

 

 長期継続契約に係る総務省の「公式」見解」


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