地方自治日記

地方自治に誠実に取り組んできた県職員OBです。県の市町村課に長く在職したほか、出納局、人事委員会などのいわゆる総務畑が長く、自治制度等を専門分野としてきました。県を退職後も、時々、市町村職員などの研修で、自治制度、公務員制度、文書事務などの講義もしています。 単に前年どおりに仕事をすることが嫌いで、様々な改革・改善に取り組んできました。各自治体の公務員の皆様には、ぜひ法令を正しく合理的に解釈し、可能な限り効率的、効果的な行政運営をしていただきたいと願っています。

2017年05月

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 フランス大統領にマクロン氏が当選しました。ニュースでは、安堵感から日本の株式市場も大幅に値上がりしたとのことです。

 

一零細投資家のジレンマ

 他国の大統領選挙にそれほどの思い入れはありませんが、多少の関心はありました。一つには、零細投資家の一人として、株式市場や為替への影響が気になったこと、もう一つは、グローバリゼーションの行き過ぎへの歯止めとなるかという関心です。お気づきのように、この二つの希望のベクトルは、同じ方向ではありません。

 零細投資家の一人としては、マクロン氏の勝利を願っていました。仮にマクロン氏が敗れれば、株式は下落し、更に円高になって中期的にも悪影響があるだろうと思ったからです。

 しかし、グローバリゼーションの行き過ぎに歯止めがかかってほしい気持ちがあり、ルペン氏への期待もありました。イギリスに続いてフランスもEU離脱となれば、アメリカのトランプ大統領の誕生と合わせて、反グローバリゼーションの流れは確定的になったでしょう。今以上に貧富の格差を拡大させ、中流階級人口を減らさないためには、行き過ぎたグローバリゼーションに歯止めをかける方がいいと思います。長期的な社会の安定のためには、そうすべきだと思います。

 フランス国民は、EU残留を希望してのでしょうか?それとも、EUは離脱したいが極右は嫌だという気持ちが強かったのでしょうか?大量の棄権は、何を意味するのでしょうか?
 今後の動きも注目したいと思います。

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地方自治法第234条の3(長期継続契約) 
普通地方公共団体は、第二百十四条の規定にかかわらず、翌年度以降にわたり、電気、ガス若しくは水の供給若しくは電気通信役務の提供を受ける契約又は不動産を借りる契約その他政令で定める契約を締結することができる。この場合においては、各年度におけるこれらの経費の予算の範囲内においてその給付を受けなければならない

自治令第167条の17  地方自治法第234条の3に規定する政令で定める契約は、翌年度以降にわたり物品を借り入れ又は役務の提供を受ける契約で、その契約の性質上翌年度以降にわたり契約を締結しなければ当該契約に係る事務の取扱いに支障を及ぼすようなもののうち、条例で定めるものとする

 

なぜ長期継続契約が困難か?

  条文だけサッと読むと、各自治体が条例でNHK受信契約を指定すればよさそうに見えます。しかし、法後段の「各年度におけるこれらの経費の予算の範囲内においてその給付を受けなければならない。」が、ネックになってしまいます。

 

 電気、ガス、水道などなら、各年度の予算に合わせて使用することもできます。また、予算が0だったら、契約を解除することもできます。

 リースなどの長期継続契約の場合は、契約条項として、予算の減額等があった場合は契約を解除できる文言を入れ、法律の条件をクリアしています。これらは、総務省の指導・助言によるものです。

 しかし、NHK受信契約の場合は、予算に合わせて使用することもできず、契約書に予算減額の場合の解除条項を入れることなど、NHKが認めるとは考えられません。そもそも、テレビを保有している限り、契約して受信料を払うのが国民の義務だと主張しているわけですから。予算が減額されたら、テレビ自体を処分せざるを得ません。もったいない話です。

 この辺りについて、地方自治法とNHKの双方を所管している総務省としては、どう考えているのか、ぜひ、見解を伺いたいところではあります。

 

地方自治体における実務

 条例で指定していない以上、正規に長期継続契約として締結することはできません。しかし、テレビをもっていない自治体、NHKと受信契約を拒否している自治体というのも聞いたことがありません。

 どこの自治体も、無自覚に、自治法に違反して、年度を超える契約を結び、年度を超える前金払をしているのでしょう。

 

 参照NHK受信料1  地方自治法の扱いは?」

 年度を超える前金払が本当に違法かどうかについては、次を参照願います。

  「年度を超える前金払って、本当に違法?」

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 NHK受信料は、変な制度です。受信しようがしまいが、受信機を保有しているだけで受信料を払えという制度です。一般的な法秩序を無視している制度だと思います。そのせいもあり、地方自治法上の取扱いをどうすべきか、疑問な点がいくつかあります。

 

支出科目「節」は?

 民間企業では、おそらく通信費に計上しているところが多いと思いますが、地方自治体では「役務費」の節に計上しているところが多いと思います。しかし、これらはいずれも役務の提供を受ける対価としての支払を想定している費目であり、提供を受けるかどうかにかかわらず支払わなければならないようなものの支出には、不適当のような気もします。

 自治法施行規則で規定している節では、他に、負担金使用料及び賃借料委託料なども考えられますが、いずれも、同様の理由で不適当でしょう。

 最もぴったりくるのが、「公課費」です。テレビがあれば、NHKを受信するか否かにかかわらず払わなければならないとすれば、テレビにかかる公租公課と考えるべきではないでしょうか?NHKは、嫌がるかもしれませんが…。

 

長期継続契約には該当する?

 地方自治体の契約は、年度を超えてはいけないことが原則です。例外として、地方自治法第234条の3では、「電気、ガス若しくは水の供給若しくは電気通信役務の提供を受ける契約又は不動産を借りる契約その他政令で定める契約」は、年度を超えて契約できることになっています。

 この「政令」では、年度を超えて締結しなければ不都合な契約の種類について、各自治体が条例で指定することになっています。各自治体では、コンピュータや複写機などの機器の賃借(リース)契約や庁舎の管理委託契約などを条例で定めています。

 まず、「電気通信役務」にNHKの受信契約を含むかどうかですが、一般的な解釈では無理でしょう。CATVやWi-Fiは、電気通信役務でしょうが、放送は無理です。

 各自治体が、条例で制定するかどうかが次に問題になりますが、私の知る限り、条例でNHK受信契約を指定している団体はありません。また、総務省(旧自治省)が、各自治体に条例で指定するように助言している形跡も見当たりません

 実は、これを長期継続契約として扱いにくい理由があります。

 次稿「NHK受信料2  長期継続契約はダメ?」で説明します。

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 地方公共団体の契約は、主に一般競争入札指名競争入札随意契約のいずれかの方法で行われます。このうち、指名競争入札とは、資力信用等から適当な複数の参加者を選んで入札によって競争させ、最も有利な条件を示した者と契約を締結する方法です。

 

「地方財務実務提要」の珍説

 この書籍は、指名競争入札の場合、1者しか参加しなかった場合は入札を遂行すべきでないとするのが通説であると言っています。また、当初の入札には複数の参加者がいたが落札者がおらず、再度の入札(いわゆる再入札)に付した際に辞退者が出て参加者が1者しかいない場合も、執行すべきでないとするのが通説であると言っています。

 条文に基づく解釈を一切示さずに、これが通説であると逃げるのは、非常に無責任な態度だと思います。そもそも、こういう説を主張している書籍は他にほとんど見当たらず、この同じ編集者のグループ(○○制度研究会)が言っているに過ぎないのではないかと思います。

 

初度の入札についての検討

 地方自治法や施行令には、指名競争入札で参加者が一人の場合は執行しないよう求めていると解釈できる文言はありません。したがって、何も条件を付けずに入札を始め、参加者が1者しかいなかったからといって打ち切ってしまうのは、法令上の根拠もなく、参加者を裏切る行為であり、できないでしょう。

 明文の規定がなくても、地方自治法等の趣旨から、当然にそう解釈すべきだという主張があるかもしれませんが、それが誤りであることは、法令の論理解釈から説明できます。

  「指名競争入札の参加者数  自治法はどう想定しているか?」参照

 私も、指名競争入札で当初から参加者が1者だったとすれば、指名が著しく不適当であった可能性があるので、入札は打ち切るべきだと考えています。しかし、その団体の規則や指名通知の際の条件等で、その旨あらかじめ明示していなければ、そのような扱いはできないと思います。そういう前提条件や説明なしに、「通説」などと私見を正当化するのは、無責任です。

 

再入札についての検討

 当初の入札には複数の参加者がいたが落札者がおらず、再入札に付した際に辞退者が出て参加者が1者しかいない場合は、どうでしょうか?

 「地方財務実務提要」では、「当初の入札がその競争性を有していたとしても、この再度入札は競争性を著しく欠くものでありますから、・・・ 執行すべきでないとするのが通説」と主張しています。この「通説」なるものが怪しいことは、前述のとおりです。

 一般競争入札も指名競争入札も、再入札については、初度の入札に参加した者しか参加できない点で、変わりはありません。つまり、この書籍の説明では、一般競争入札についても再入札でこのような事態になれば、「この再度入札は競争性を著しく欠く」ので、打ち切らなければならないことになってしまいます。しかし、一般競争入札でそのような取扱いをするはずがなく、この理由、解説は、明らかに誤りです

 初度の入札で精一杯の金額を入れた人は、それで落札できなかった場合、契約をあきらめて再入札を断念することは、ごく普通のことです。初度の入札に複数の参加者がいたということは、指名が著しく不適当ではなかったことを示しています。

 再入札に独自の競争性を要求する必要などなく、不合理です。

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 地方自治法や施行令は、指名競争入札で参加者が1者であった場合には、入札を執行せずに、打ち切ることなど、予定しているでしょうか?「地方財務実務提要」のそのような記述は、正しいでしょうか?

 

地方自治法施行令の関連条文

(指名競争入札)

167  地方自治法第234条第2項の規定により指名競争入札によることができる場合は、次の各号に掲げる場合とする。

(1)工事又は製造の請負、物件の売買その他の契約でその性質又は目的が一般競争入札に適しないものをするとき。

(2)その性質又は目的により競争に加わるべき者の数が一般競争入札に付する必要がないと認められる程度に少数である契約をするとき。

(3)一般競争入札に付することが不利と認められるとき。

(随意契約)

167条の2  地方自治法第234条第2項の規定により随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。

(8) 競争入札に付し入札者がないとき、又は再度の入札に付し落札者がないとき。

 

次の理由から、地方自治法や施行令は、指名競争入札で参加者が一人になった際には入札を打ち切ることなど、予定していないと考えられます。

1 そのような扱いを求めていると解釈できる条文がない

2 施行令第167条の21項第8号により、指名競争入札でも、参加者がゼロだった場合は随意契約に移行できることになっているが、参加者が1者だった場合は随意契約はできない。これは、参加者が1者だったとしても、入札を遂行することを予定していると解釈せざるを得ない。そうでなければ、著しく不合理であり、そのような解釈はできない。

3 施行令第167条第2号では、競争に加わるべき者の数が一般競争入札に付する必要がないと認められる程度に少数である場合は、指名競争入札を選択できることになっている。しかし、実際の参加者が1者だった場合は打ち切るという運用をすれば、それを避けるため、参加者が極めて少数と認められる契約は、指名競争入札を選択できない。これは、施行令の想定している運用ではない

 

 以上のとおり、文理解釈からも論理解釈からも、地方自治法や施行令は、指名競争入札で参加者が1者であった場合にも、入札を執行せずに打ち切ることなど予定しておらず、淡々と入札を遂行することを予定していると解釈されます。

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