地方自治日記

地方自治に誠実に取り組んできた県職員OBです。県の市町村課に長く在職したほか、出納局、人事委員会などのいわゆる総務畑が長く、自治制度等を専門分野としてきました。県を退職後も、時々、市町村職員などの研修で、自治制度、公務員制度、文書事務などの講義もしています。 単に前年どおりに仕事をすることが嫌いで、様々な改革・改善に取り組んできました。各自治体の公務員の皆様には、ぜひ法令を正しく合理的に解釈し、可能な限り効率的、効果的な行政運営をしていただきたいと願っています。

2017年07月

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 この作品は、2,3年前に初めて読みましたが、私が西村先生の作品に疑問を持った最初の作品です。この作品ではおかしく感じたのは1点でしたが、その後の作品で、変な部分が増えてきていることが、ファンとして気になります。

 これを読むまでは、先生の作品に批判的な思いをもったことはなく、新しい作品を見つけると夢中になって読んでいました。

 

 私は、サッカーには特に興味がある方ではなく、知識もないので、違和感を覚えたのは、サッカーに関することやなでしこのメンバーに関することではありません。非常にささいなミスです。

 

 捜査を進め、怪しい会社を絞り込む過程で、三つの会社の経営状況を聞くために、軽井沢税務署に調査を依頼します。税務署の回答は、「三社とも例年通りの固定資産税をきちんと払っている」とのこと。さらに、十津川警部が粉飾決算による赤字隠しの可能性を尋ねたのに対し、税務署員がそれを否定しています。

 それまで楽しく読み進めてきたのが、この下りを読んで、「何じゃこれは?」とショックを受けました。

 固定資産税は、市町村税であり、国の税務署とは関係ありません。また、固定資産評価額に応じて課税されるもので、会社の経営状況には関係ありません。

 

 これは、明らかなミスで、固定資産税ではなく法人税にしておけば、何の問題もない部分です。

 固定資産税が国税ではなく市町村が課税していることは、常識の範囲といっていいかと思います。西村先生のうっかりミスを、なぜ出版社、編集者とも放置したのでしょう。仮に、私が校正していれば、絶対に修正を申し出ていました。

 

 繰り返しになりますが、出版社や編集者は、もっと西村氏の名声を大切にしていただきたいと思います。

 

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 この作品には、最初のページからミスがあります。しかも、トラベルミステリーの第一人者の西村氏とは思えない、鉄道の知識に関する残念なミスです。

 

 北陸新幹線開業によって、東京、金沢の遠距離恋愛に及ぼす影響を解説している部分です。

 今までは東海道新幹線で京都まで行き、京都から北陸本線の「サンダーバード」で金沢へ行くか、東海道新幹線で米原まで行き、そこから北陸本線の「しらさぎ」で金沢まで行くかのどちらか、前者は4時間30分、後者は5時間かかっていたと説明されています。お分かりのとおり、大事な路線が漏れています。

 北陸新幹線開業までは、上越新幹線で越後湯沢まで行き、ほくほく線経由の特急はくたかで金沢まで行くのが、3時間50分から4時間15分ほどと最短でした。しかも、はくたかは、在来線特急の営業運転で日本一のスピードを誇る人気列車でした。

これを漏らすとは、西村氏とも思えません。私自身も、2回ほど乗った懐かしい列車が漏れていて、残念でした。

 

 終盤で、犯罪に至るきっかけが解き明かされる場面も、不自然な点が目立ちます。

 

① 普通の女子大生が、恋人への誕生日のプレゼントに、100万円を超える中古のポルシェを贈ろうなどと考えるというのは、極めて不自然で、ほとんどあり得ない。

② 推理の過程で、亀井刑事や十津川警部の若いころなら、若い男が欲しがる物は車だったかもしれないが、今の東京に一人暮らしをしている若い男が、車を欲しがるのが一般的か?

③ 被害者の普通の女子大生が、入手困難なチケットを大量に入手できた理由は?もし、友人を動員して入手したなら、警察が友人に対する聞き込みをやっているのに、そのことが出てこないはずがない

 

 ①③の点は、犯罪に至る根幹の部分です。これらに不自然な点があると、作品全体が変になります。

 出版社、編集者は、もっと気を付けていただきたいと思います。

 
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 西村京太郎氏の近年の作品が変だ5 「消えたなでしこ」に進む

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 この作品も、全体のストーリーは面白く、前半は楽しく読んでいたのですが、犯罪に至るお膳立てが解き明かされるあたりから変なところが目立ちました。

 その中でも、悪者側の意向に沿った選挙行動をする新住民を作るお膳立てが根幹だと思いますが、その部分がでたらめで、作品内でも矛盾があります。

 

1か月居住しても選挙権は得られない

 悪者側が東京の山谷などから1か月の約束で人を集め、プレハブ住宅に住まわせるのですが、1か月居住しただけでは選挙権は得られません。引き続き3か月の居住が必要です。ここは完全なうっかりミスかと思います。

 物語終盤で村長選挙が行われますが、その選挙は、ちゃんと前村長の辞職後50日目に行われています。その選挙では、集められた新住民も投票したことになっており、前の1か月の約束で集められたことと矛盾してしまっています。

 

それ以外のおかしな部分

 プレハブ住宅にガス、水道、電気が、隣接の長野原町(北軽井沢)から嬬恋村役場に無断で引かれたことを役場の課長が不思議がっているが、水道と電気などは全く性質が異なる。電気は、東京電力が行政区画とは無関係に供給体制をとるので、役場に申請がなくても不思議ではない。

 水道は、市町村が事業主体であることが原則であり、他の自治体から供給を受けるには、自治体同士の「事務の委託」契約が必要である。地元自治体に無断で隣接自治体が供給することは、ありえない。

 村の一部を「新嬬恋村」という名称に変更することについて不動産業者が群馬県庁に申請しているが、村内の地名変更に県の許可など必要ない。

 最後の場面で、北軽井沢との境界沿いに10メートル幅で帯状に土地を購入しているが、そんなことをしようとすれば境界確定、測量、分筆登記等が必要で、多くの時間と費用が必要。簡単にできることではない。

また、新村長が就任直後にそのような予算が計上してあったはずがなく、まずは予算の編成、議会での議決が必要である。さらに、一般に町村が5000平方メートル以上の土地を700万円以上で購入するときは、予算議決とは別にあらかじめ議会の議決も必要であり、議会が知らないうちに購入することは、ありえない。

 10メートル幅の土地を隣接のA村に買ってもらえることになっているが、A村がそんな土地を高額で購入するメリットが考えられない。また、土地の所有権と、その土地をどの自治体に帰属させるかは、別問題であり、A村に帰属させるためには別にA村に買ってもらう必要はない。

 

  水道がなければ人は住めないので、水道の問題はこのお膳立ての根幹にかかわっています。ここには、別のお膳立てが必要でしょう。他の多くは、単純ミスと思われ、出版社、編集者がまともにチェックしていれば、防げたはずだと思います。西村氏の名声をもっと大切にしていただきたいと思います。

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 西村京太郎氏の近年の作品が変だ4 「十津川警部 北陸新幹線「かがやき」の客たち」に進む

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 この作品は、全体としてはおもしろく読めました。第2次大戦末期の出来事が2005年ころに発生した殺人事件の遠因になっていたことも、違和感なく、興味深く楽しめました。

 しかし、場面設定など、いくつかの残念な点、興ざめな部分もありました。

 

題名が苦しすぎるこじつけ?

 最大の興ざめは、この題名です。作品の最後、JR東日本社長のあいさつの中で「ダブルの日」が出てくるのですが、「10年前に殺害された技術者を含む北陸新幹線の功労者が表彰され、新幹線開業と合わせて二重におめでたい日だから『北陸新幹線ダブルの日』と名付ける」との説明です。下らないダジャレを聞いた時のような居心地の悪さというか、思わず「寒っ!」と言いたくなるような感じです。

 後述するように、設定自体が苦しいのに、その苦しい設定に無理やりこじつけて題名にする、あんまりだと思いました。

 編集者は、何とも思わなかったのでしょうか?

 

他にも不自然すぎる設定

 題名の不自然さほど致命的ではないのですが、他にも不自然な設定で、興をそがれる部分があります。

① なぜ警視庁の警部が、上越妙高駅で開催された開業セレモニーやパーティーに招待されているのか?

② JR東日本の社長が、東京駅での式典ならともかく、「かがやき」も停車しない上越妙高駅での式典に参加しているのは変ではないか?

③ 旧日本軍の技術者で国鉄に転じた人、特に開業10年前に死亡している人が、列車全体の基礎的な技術ならともかく、北陸新幹線の車両設計に功績があったというのは、あまりにも不自然ではないか?

④ 被害者の孫娘が、高校のときは自宅を離れて東京の高校に通い、大学に入学するときは新潟県柏崎市に戻って地元の大学に進学するなど、普通は考えられない。普通は、高校は地元にいて、大学進学時に東京へ行く。不自然な逆パターンである理由の説明が見当たらない。

⑤ 新潟県警の警部が、上越妙高駅付近で、イベント当日、亀井刑事と会って話をし、翌日十津川警部と昼食を共にしているが、県警本部のある新潟市と上越妙高駅は130キロも離れており、昼休みなどに気軽に行き来できる位置関係にない。新潟県警の警部がわざわざ上越妙高駅付近にいたとすれば、その理由の説明が必要。

 

 このようなことは、話の本筋に関係のない些細なことですが、これらの設定があまりに不自然だと、読んでいて興ざめしてしまうのです。

 

 出版社、編集者が、出版前に何とかしておく問題だと思います。

 

 西村京太郎氏の近年の作品が変だ1 「札沼線の愛と死…」参照

 西村京太郎氏の近年の作品が変だ3 「北軽井沢に消えた女」に続く

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 夫婦そろって西村京太郎さんのファンです。図書館で、まだ読んでいない作品を見つけると迷わずに借り、書店で見かけると買うという生活を何年も続けていました。しかし、ここ数年の作品は変なのが多いと思います。

 今日読んだのも、変でした。

 

「札沼線の愛と死 新十津川町を行く」

 雪の夜、十津川警部の住む東京都三鷹市で銃殺事件が発生し、警部が自宅から三鷹駅近くの現場へ出動するのですが、アイスバーンだからといって、何とスキーを履いて駅に向かうのです。いくらなんでも東京の道路をスキーで行くというのは、馬鹿馬鹿しすぎます。

 出だしからこんな具合で、その後も変なことだらけです。

招待状について町に電話で問い合わせた時に、町長は即答できずに、5,6分調べた後で、出していないことを回答します。そのことについて、町長名で出されたはずの招待状のことを町長が即答できないのはおかしいとして推理を展開します。しかし、町が何かのイベントで招待状を出した時に、町長が招待者の全員を把握していないことなど当然で、何もおかしくありません。むしろ、一警部からの問い合わせの電話に、町長自身が応対することの方がよほど不自然です。さらに、この招待状が重要な意味を持っていたはずなのに、後半は全く登場せず、結局、招待状のことは何も明らかにされません。

ネタバレになってしまうので具体的なことは書きませんが、被害者が狩猟用のナイフを持っていた理由、なぜ銃を、情報提供者が情報を提供する理由等、最後まで説明がなかったり、納得のできないことばかりです。

 極め付けが、魔法使いの正体で、こんなことがあったら最初の段階で大騒ぎになっていたはずで、荒唐無稽すぎます。

 

編集者は何を?

 私は、出版業界のことは知りませんが、出版社、編集者は、何をしているのでしょう。

 この作品以外でも、場面設定に無理、矛盾があったり、単純な知識不足のものも散見されます。そんなのは、編集者が読めば気づくはずで、なぜそのまま出版されてしまうのでしょう。新人の作品ならダメ出しができても、西村氏のような大家にはできないということなのでしょうか?

 西村氏の著作を出版すれば、それなりには売れるでしょう。しかし、こんな作品を出版し続ければ、西村京太郎氏の名声を汚すことにならないか、心配です。

 他の作品の変な点も。今後指摘したいと思います。

 出版社、編集者には、西村氏の名声を汚さないよう、反省していただきたいと思います。

 
西村京太郎氏の近年の作品が変だ2 「北陸新幹線ダブルの日」』に続く

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