地方自治日記

地方自治に誠実に取り組んできた県職員OBです。県の市町村課に長く在職したほか、出納局、人事委員会などのいわゆる総務畑が長く、自治制度等を専門分野としてきました。県を退職後も、時々、市町村職員などの研修で、自治制度、公務員制度、文書事務などの講義もしています。 単に前年どおりに仕事をすることが嫌いで、様々な改革・改善に取り組んできました。各自治体の公務員の皆様には、ぜひ法令を正しく合理的に解釈し、可能な限り効率的、効果的な行政運営をしていただきたいと願っています。

2019年01月

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 新潟県長岡市で、118日、官製談合等の容疑で、市の工事検査監や県議会議員の秘書、工事業者らが逮捕されました。報道によると、工事検査監は、県議会議員秘書の依頼に応じて工事価格(予定価格)を漏らし、工事業者はその情報をもとに最低制限価格ぴったりで落札したということです。
 さらに、29日、兵庫県西宮市でも、官製談合の疑いで市の下水建設課の職員や工事業者らが逮捕されました。事件は、長岡市とおおむね同じ構造で、職員が設計価格を漏らし、業者がその情報をもとに、最低制限価格を4万円上回る2億5千万円で落札したというものです。

 情報を漏らした市の職員等が悪いことはもちろんですが、制度上の問題を指摘したいと思います。それは、最低制限価格を高く設定しすぎていることです。

 

最低制限価格とは

 最低制限価格は、粗雑な工事を防ぐため、入札に際して発注者が設ける落札の最低金額です。製造や請負の契約のための入札の際に設定することができますが、物品購入などの入札の際は設定できません。これを下回る金額で入札した場合は失格になります。

 一方、予定価格は、落札の上限額であり、これを超えれば落札できません。つまり、予定価格以下、最低制限価格以上の金額で、一番低い金額を入札した者が落札します。だから、最低制限価格で入札すれば、ほぼ確実に落札できます。「ほぼ」と書いたのは、複数者が最低制限価格で入札してくじ引きになることもあるからです。

 最低制限価格は、積算した工事価格から、事業者のもうけに当たる諸経費などを削ぎ落して計算することが本来の趣旨ですが、一律に予定価格の90%とか、3分の2とかで設定する実態になっている団体も多いようです。

 

長岡市の最低制限価格

 市のホームページに、201612月から適用されている長岡市の最低制限価格の設定方針が公表されていました。

 それによると、130万円以上の工事が対象で、次の基準で設定するようです。

1. 算定式:非公表
2.
制限価格:予定価格の70%~90%(現行どおり)
 算定した結果が予定価格の90%を超えた場合は、予定価格の90%となります。

 

 工事価格(予定価格)が分かれば最低制限価格もピッタリ分かったようなので、実態としては、予定価格の90%を最低制限価格とすることがほとんどだったのかもしれません。
 西宮市の手法も、似たような手法のようです。国のモデルに準じているのでしょう。

 

 そもそも、最低制限価格は、その趣旨から、工事の実費だけは賄えても儲けは出ない水準に設定すべきものです。多くの業者が契約したがる価格(ちゃんと儲けの出る価格)を最低制限価格に設定するから、こんな事件が起こるのです。

 このような設定方法は、長岡市、西宮市だけでなく、多くの地方自治体で行われているようです。

 予定価格の90%もの価格を最低制限価格に設定するのは、建設業者の利益を守るためです。納税者の利益は損なわれています。このようなやり方が制度化されているのは、建設業界と行政とのなれ合いの結果だと思います。ただ、市町村などの場合、単純に国や都道府県に準じているだけかもしれません。

 

 皆様の自治体では、最低制限価格をどんなやり方で設定していますか?

 入札後に予定価格や最低制限価格を公表している団体ならば、すぐ分かりますが、近年は、非公表の団体が多いようです。それでも、最低制限価格未満で失格した入札と、落札価格を見比べれば、おおよそは推測できます。

 事件が起こる前に、正すべきは正された方がいいと思います。

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 「議会の委任による専決処分」(一般に「指定専決」ともいう。)という制度があります。地方自治法第180条に基づくもので、議会の権限に属する事項で軽易なものはあらかじめ議会が議決によって指定し、それについては首長が事前に議会に付議せずに専決処分できる制度です。

地方自治法

〔議会の委任による専決処分〕

180条 普通地方公共団体の議会の権限に属する軽易な事項で、その議決により特に指定したものは、普通地方公共団体の長において、これを専決処分にすることができる。

 前項の規定により専決処分をしたときは、普通地方公共団体の長は、これを議会に報告しなければならない。

 

提案権の問題

 もともと議会が持つ権限を長に委任するものですから、長から提案することは筋違いであり、長には提案権がないというのが通説的な解釈であり、異論は見当たりません。私も同じ考えです。

 一方、条例の制定は、議員と長の両方に提案権がありますが、実際には長が提案することがほとんどです。その長が提案した条例で、本来は「指定専決」として議員提案で定めるべきことを定めてしまっている例がかなり見受けられます。もちろん、適当ではありません。

 よく見られるのは、議決を要する契約に係る契約金額の軽微な変更です。議会の議決を要するような大きな工事の契約は、途中で金額を変更せざるを得ないことが頻繁に生じます。その場合には、本来はあらためて議決を得なければなりませんが、条例で、例えば6分の1以内の金額の変更契約は議会にかけずに長が決めていい旨の定めをしている条例がかなり見受けられます。こういうことは、本来は「議会の委任による専決事項の指定」として定めるべきでしょう。

 

昭和301217日行政実例

 問 第180条の提案権は、長にもあると思うがどうか。

 答 長は、議長に対して事件を指定して議決を依頼することができる。

 

 原文はもっと丁寧なのかもしれませんが、現在、行政実例として流布しているのは、上のとおりです。間違いではありませんが、明らかに言葉足らずで、誤解を招きます。

 答は、長には提案権はないことを大前提に、「議長にお願いしてみるのはいいよ。」と回答しているのです。法律的、制度的な質問に対して、法律から離れた事実行為で回答しています。

 制度に詳しくない採用間もない職員の中には、「議決を依頼することができる。」を読んで、長には提案権があると誤解してしまう人もいます。間違いではありませんが、想定の斜め上を行くおもしろい行政実例です。回答者、又は行政実例をまとめた担当者は、ユーモアのある人だったのかもしれません。

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 著者は、「企業や商品のブランディングをデザインでサポート」する、「クリエイティブディレクター」という仕事で活躍している人です。「くまモン」を世に出した人のようです。たくさんの仕事を次々と遂行している秘訣が、「段取り」ということです。

 著者の主張では、どんなに創造的に見える仕事でも、ほとんどがルーティンに分解することができ、ルーティンをきちんと段取りして効率的に片づけることによって、大事な部分に集中すべきということのようです。

 

 本書は、プロジェクトを成功させるための方法が説明されています。

 まず、プロジェクトのゴールをビジュアルに、明確にイメージし、メンバーで共有することの大切さ、確固たるコンセプトを持つことの大切さが説かれています。

 また、締め切りをきちんと守ることが重要で、内容を優先するあまり期限を重視しない考え方は、誤りだとしています。

 

 私は、県に在職して組織改革の仕事に携わったころ、必要に迫られて、経営学、マネジメント等のビジネス書を読み漁った時期があります。本書を読んで感じたのは、書かれている内容が、きちんと経営学、組織論の考え方と合致していることです。著者は、「ビジョナリーカンパニー」(ジム・コリンズほか)、「最強組織の法則」(センゲ)、「クリティカルチェーンなぜ、プロジェクトは予定どおりに進まないのか?」(ゴールドラット)などで説かれている内容に近い経営をされているようです。また、それによって、高い成果を上げておられます。

 

 私は、今まで、期限を明示せずに仕事の依頼をしたり、引き受けたりすることがかなりありました。本書を読み、これが一番の反省点です。

 

 本書は、プロジェクトを成功させるための段取りのノウハウにとどまらず、組織運営、マネジメント全般にわたって、とても参考になる本です。

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 福井市で、僧衣で運転していた僧侶が交通違反で青切符を切られ、宗派が反発していることが、年末から年始にかけて話題になっています。報道され始めたのは年末ですが、事件自体は20189月だったようです。

 反則金6000円の青切符を渡されましたが、僧侶は反則金を納付しておらず、所属する浄土真宗本願寺派の本山・西本願寺は「法事のため僧衣で車を運転する機会は日常的にある」と猛反発しているとのことです。

 一方、福井県警では、「運転操作に支障がある衣服」として切符を切り、その後の説明では「袖がシフトレバーなどに引っかかり、裾が狭く足が動かしづらいためブレーキ操作が遅れる。」とした上で、今回は着方に問題があったが、着方によっては違反にならないと説明しているようです。熱心な一向宗徒が多い福井県の県警としては、本山との全面対決は避けたいところでしょう。一向一揆でも起こったら大変です。

 

思い出 僧侶の受難

 この報道を見ていて、私が県の教育委員会に在職していた時に関わった、ある懲戒処分を思い出しました。

 某公立学校教員で、僧侶でもあるA先生は、ある日、缶ビールを1本飲んで就寝しました。ところが深夜12時ころ、檀家から電話があり、家族が亡くなったので枕経に来てほしいとのことでした。A先生は、僧衣に着替え、マイカーを運転して檀家に行き、お経をあげて、帰宅する時、検問にかかり、飲酒運転で切符を切られました。A先生は、翌日、校長に報告しました。

 2006年の福岡での飲酒運転死亡事故をきっかけに飲酒運転の厳罰化が進み、原則として懲戒免職のいう基準になった自治体が多いと思います。が、この時は、まだ福岡の事故の前だったので、県教育委員会では、当時の基準に基づき、停職6か月の懲戒処分としました。私も同僚も、この先生に同情的でした。

 都市部ではなく、なぜそんな時間に警察が張っていたのか不思議だったのですが、その日は地元の消防団の飲み会があったので取り締まっていたらしいという話が聞こえてきました。何というタイミングの悪さ!

 また、A先生は好人物なのでしょう。檀家から迎えに来てもらったり、ハイヤーをよこしてもらえばよかったのにと思いました。

 

 一般的な感覚からは、これで罰を受けるのは気の毒な気もしますが、やむを得ないのでしょう。お坊様の受難の時代です。

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 厚生労働省の勤労統計の不正問題騒動が続いています。

 まだ分からない部分が多い事件ですが、報道で分かってきた部分もあります。

 

統計的な処理が行われていない!?

 1月20日のサンデーモーニングの解説によると、次のようなことでした。

⓵ 500人以上の事業所は全数調査すべきところ、3分の1程度しか調査対象とされなかった。

② 比較的賃金の高い大規模事業所のデータが3分の1しか集計されなかったため、平均賃金が低めに算定されてしまった。

 

 にわかには信じ難い話です。統計データを集計するときは、母集団の数に応じて加重平均することは常識ですが、それをしなかった?

 統計に携わる職員がそんな初歩的なミスをするはずがありません。これは、何らかの作為があり、その説明をしたくないため、そんなアホなストーリーを組み立てているのではないかと勘ぐってしまいます。

 

誰のどんな意図で?

 このようなことは、うっかりミスでは起こりえないと思います。手間を省きたかったのなら、抽出データを減らしても加重平均すれば済むことです。この処理を始めたときに、誰かの作為が働いたことは確実でしょう。

 

組織的関与は?

 特別監察委員会の調査(ヒアリング)では、組織的関与、組織的隠ぺいは認められなかったとされています。しかし、どの段階からを「組織的」というのかは不明ですが、行政に携わっていた経験から判断させていただけば、担当者個人の判断でできる不正ではありません。少なくとも課のレベルの組織的関与があったことは間違いないだろうと思います。

 

 どの段階のどんな意図が働いてこのような不正が行われたのか、解明されるべきだと思いますが、追及の過程で自殺者が出るようなことがないよう願っています。

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