新聞を読んでいたら、昨年(2019年)2月に亡くなった米国出身の日本文学研究者ドナルド・キーンさんの養子、キーン誠己さんが東京都内で記者会見し、キーンさんの命日の2月24日を「黄犬(キーン)忌」と名付けると発表したとの記事がありました。
キーンさんは若い頃から「黄犬」という文字を雅号のように手紙の署名などに使っておられたとのことです。キーンさんの通称としては、「鬼怒鳴門」(キーン・ドナルド)が有名ですが、「黄犬」も遊びで使っていられたようです。
この記事を読んだとき、私は「なんでそんな名前に?」と少々驚きました。
「黄犬」とは
学生時代に公務員試験対策として労働法をほんの少しかじっただけの私でも、黄犬契約(おうけん、こうけん)という言葉は憶えています。
黄犬契約とは、雇用主が雇入れ契約を結ぶ際に、労働組合に加入しないこと、あるいは組合から脱退することを条件とする契約です。もちろんこのような契約は、現在の日本の労働組合法で禁止されています。英語の「yellow-dog contract」を直訳した言葉で、つまりyellow-dog、黄犬とは、裏切り者とか、卑劣な奴というような意味のようです。
さらには、ウィキペディアによると、戦前の日系移民の就労ぶりを暗喩しているという人もいるようです。
なぜそんな名前を?
米国出身の教養人、キーンさんが、yellow-dog、黄犬がこのような意味であることを知らなかったはずはありません。知っていながら、それを自称しておられたのです。
さらには、最も縁が近かった人が、それを命日の呼び名にする・・・。
その理由は、報道では触れられていません。
亡くなった内田康夫さんの浅見光彦シリーズの中に、題名は忘れましたが、自分の過去を恥じて「下司」(げす)と記名した千社札を貼りながら神社等に参拝を続けている老人が殺されるストーリーがあります。キーンさんも何か後ろめたいもの、恥ずかしいものを秘めていたため、自虐的にこのような呼称を使ったか、あるいは、どこにも後ろめたいことがないため、茶目っ気で堂々とこのような呼称を使ったか、私は、後者だろうと思います。
米軍の一員として来日し、その後日本国籍を取得されたキーンさんは、日本人に対しても米国人に対しても、なんら恥じるところのない生涯を送られたのでしょう。
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