本書の帯には、「いま初めて暴かれる最高裁の闇!2回城山三郎賞受賞作家にして最高裁中枢を知る元エリート裁判官が描く本格的権力小説!」という文字が躍っています。

 内容は、与党の意向を受けた最高裁長官が、原子力発電所の設置認可に係る訴訟について、下級審が原発建設を差し止める判決を出すことを阻止するため、様々な画策をし、主人公やその友人の裁判官等がそれに抵抗する物語です。舞台は、1980年代後半という設定です。したがって、東京電力の福島原発の事故はまだ起きておらず、「日本の原発はチェルノブイリやスリーマイルと違って絶対に安全」という馬鹿げた神話がまかり通っています。

 「この作品は、架空の事柄を描いた純然たるフィクションであり、実在の人物、団体、事件、出来事党には、一切関係がありません。」という断り書きが冒頭にあり、さらに念を入れて著者自身の後書きで「あるパラレルワールドの物語」であると記されています。

 著者は、本書の主人公、笹原と同様、アメリカ留学、最高裁での勤務を経験した方です。

 主人公は、最高裁の事務総局、民事局付に配属され、その職務の中で、裁判官に対する人事権を背景とした最高裁の「闇」の部分を直接、間接に体験します。

 

 最高裁事務総局主催の「裁判官協議会」という会議が描かれています。各地の裁判長等が集まり、懸案について話し合う場のようですが、大きな問題についてはここで考え方のすり合わせが図られるようです。ここで最高裁から示された方向性に逆らう裁判官は、多くはないでしょう。

 

 行政の裁量を重視し、その裁量に著しい不合理がなければ是認するいわゆる「司法消極主義」と、原告側の主張に行政側がきちんと反証して危険性が無視しうるほど小さいことを立証しなければ差し止める立場との対立の構図です。これは、現在の原発関係の行政訴訟の構図でもあると思います。

 最高裁の組織などの描写や様々なエピソードが、あまりにもリアルで、内部を経験した人でなければとても書けないような内容です。わざわざ再三「純然たるフィクション」と断っているのは、フィクションとは思えないほどのリアリティーがあるからでしょう。

 

日本の司法制度、原子力発電所問題に関心がある方は、ぜひ一読をお勧めします。

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