山口県阿武町が新型コロナの特別給付金4630万円を誤って一人の人に給付してしまい、その口座の名義人がその全額を別口座に振り替えてしまった事件は、全国的な注目を浴びました。現在行われている刑事裁判では、その行為が「電子計算機使用詐欺罪」に当たるかどうかが争われています。

 常識的には、この被告の行為は罰せられて当然であり、有罪にすべきとは思いますが、罪刑法定主義からは疑問があります。刑法の適用にあまり拡張的な解釈を認めてしまうと、権力側に恣意的な運用をされる恐れがあります。

 

刑法第246条の2(電子計算機使用詐欺)

  前条(一般の詐欺罪)に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。

 

 読めば明らかなとおり、この罪は阿武町のようなケースを想定したものではありません。電子計算機に誤った情報を与えたのは被告ではありません。「不正な指令を与え」「財産上不法の利益を得」ようとしたとは言えるかもしれませんが、「財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供し」たというには、かなり拡張的な解釈が必要な気がします。

 

電気泥棒の先例に倣って

 このアホなことをした男が「電子計算機使用詐欺罪」で逮捕されたと聞いた時、大学の刑法の講義で聞いた話を思い出しました。明治時代に起きた日本で最初の電気泥棒の事件です。

 電線から勝手に電気を引いて使ったいて窃盗罪に問われ、法律家の間でも議論を巻き起こし、一審は有罪、控訴審は無罪、大審院では有罪になりました。控訴審が無罪にしたのは電気は「財物」でないから、大審院が有罪にしたのは、電気は測定や管理が可能なものだから財物とみなすという理由だったようです。

 めでたく有罪になったものの、やはり罪刑法定主義に照らせば疑問があるので、後に刑法に「電気は財物とみなす。」という文言が付け加えられました。

 

 阿武町の裁判、どういう結果になるかは分かりませんが、どちらに転んだにしろ、誤振り込みを横領しようとする行為を罪とすることを立法で明文化すべきです。占有離脱物横領罪(ネコババ)と同じように、このような行為を刑事罰とする制度は必要です。

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