著者は、ロシアの軍事・安全保障の専門家で、ロシアによるウクライナ侵略後、ニュース番組のコメンテーター等としてしばしば登場されています。本書は2022年12月に出版され、脱稿は9月のようです。

 著者は、侵攻直前までプーチンが具体的メリットの見えない戦争を始めるとは考えなかったこと、その他にもいくつも予想を外したことを正直に告白されています。この戦争はそれほど、ロシアにとっても馬鹿げた戦争なのでしょう。仮にロシアが勝っても、西側の経済制裁でロシア経済が壊滅的打撃を受けることは免れないことは、開戦前から明らかでした。

 

 本書では、ウクライナがネオナチだ、ロシア系住民を弾圧、虐殺している等のプーチンの主張をそれぞれ検証しています。ウクライナにはたしかにネオナチの勢力は存在するものの、2019年の選挙で「国民軍団」が大敗しており、ウクライナ全体をネオナチが席巻しているという状況では全くなかったとのことです。また、ロシアで活躍中の民間軍事会社の創始者はもっと明確なネオナチのようで、ウクライナだけネオナチ呼ばわりすることはできないとのこと。

 ウクライナ政府は、ロシア語を公用語から外すなど、たしかにロシア系住民の弾圧と言えることをやりましたが、民間人の虐殺などがあった形跡はないようです。戦闘で親ロ派武装勢力に戦死者はいますが、それも以前より減少傾向だったとのことです。

 また、クリミア、ドネツク等の紛争地域がある以上、NATOがウクライナの加盟を認めるはずがなく、NATO加盟が差し迫っているという状況でもなかったとのことです。核兵器の開発なども、考えられません

 結局、残るのは、プーチンの論文「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」ということで、これはたしかにそのようなことはあるのでしょう。プーチンは、ソ連がウクライナを独立させてしまったことは一種の「政治的手違い」と見ており、その是正を図りたかったことは間違いないでしょう。しかし、ウクライナの側から見れば、いつも二等国民のように扱われ、ロシアから搾取、虐待されて、一緒にいたくないと考えることも当然であり、ロシアにはそれを阻止する権利はないでしょう。

 結局、この戦争は、プーチンの野望と思い込みから始まってしまったようですが、分からないことが多すぎます。本書を読んで、何が専門家にとっても謎なのか少しは理解でき、ニュースを見るうえで参考になります。

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