冒頭の「前口上」、コロナ禍の自粛ムードの中、主人公の輝明と同棲中の彼女(あさひ)とのこんな会話でスタートします。

 「これ、今のうちに婚姻届出したら、式とか挙げなくて済むんじゃないか?」

 「天才かきみは」

 そして、親族を集めた結婚式などしたくない理由を説明する形で、2人が付き合い始めた高校3年生の場面にさかのぼって物語が展開し、最後の「納め口上」ではZoomを使ったリモート婚(参加は高校大学の友人のみ)で締められます。

 

 輝明もあさひも、子どもの頃の親からの仕打ちで、心に傷を負っています。2人のほかにも、親からの虐待で心に傷を負った人が何人も登場します。また、東日本大震災、原発事故からの避難という重い経験も、たくさん出てきます。

 一方、この小説のテーマは「期待」なのでしょう。輝明があさひへの愛情を自覚し始める場面で、アベノミクスの説明を絡めて「期待」について経済学的な説明をしながら、輝明の幸福への期待も語られます。

 「景気がよくなるだろうという期待」から、「人は手持ちの金を貯め込まずに使い始める」「誰かが使った金は、誰かが稼いだ金になり、誰かが借りた資金の分だけ、国内のマネーは増加する。失業は減り、賃金は上がり、緩やかなインフレという名の物価の安定が訪れる。」「俺は今『期待』している。」

 題名もとても今日的です。昔の若者のように、「明るい未来を信じる」とか「大きな夢を持つ」とかまではできず、「少しは期待している」のです。「まだ」が付いているのは、親にひどい目に合わされたり、災害にあったりしたけれど、まだ幸せになれるかもしれないという、いじらしい期待です。

 若者が大きな夢を持ちにくい社会、国を残してしまった我々中高年世代は、若者が少しでも幸せになれるよう努める責任がありそうです。

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