350頁ほどの文庫本で全13巻、かなり長編の時代小説です。私は以前、この著者の作品「みをつくし料理帖」シリーズ全10巻を読んでとてもおもしろく、感動しましたが、本書もそれに劣らず、おもしろく、感動的な物語です。

 「みをつくし」はドラマ化されて人気を博したので、こちらもいずれドラマ化されるのではないかと期待しています。

 

 ヒロインの幸は、摂津の田舎で私塾を営む貧しい学者の娘として生まれた少女です。兄と父親を相次いで亡くし、9歳で大坂天満にある呉服商「五鈴屋」に女衆として奉公に出されます。女衆は商売にはかかわらせてもらえないのですが、熱心に勉強しようとする幸を応援してくれる人も登場し、やがて商才を見込まれて、ろくでなしの4代目当主の後妻にさせられます。さらに運命に翻弄されて、5代目、6代目の妻になり、商売を発展させていく物語です。「買うての幸い、売っての幸せ」をスローガンに掲げて顧客のことを常に考えて様々な工夫を重ね、店を繁盛させます。

 前半は大坂が舞台で、幸は7代目店主に上り詰めますが、大坂は女名前での営業が暫定的にしか認められないことから、幸は大坂の店を支配人らに任せ、自身は江戸に進出して江戸店の店主になります。そこから、江戸が舞台になります。

 大坂時代、5代目徳兵衛(幸の夫)は、生糸の産地である江州波村に多額の前銀(前渡し金)を渡し、その村を絹織物の産地に育ててそれを五鈴屋が一手に握ろうとします。しかし、その前渡し金は、徳兵衛自身が密かに倒産を懸念している両替屋の手形でした。つまり、彼は、波村に多額の前貸しをすることで、意のままにしようとしたわけです。作者は、良識派の登場人物に「成長を見込んでの支援と、搾取するがための前貸し。金銀を差し出すのは同じでも、受け取る方にとっては意味がまるで違うてきます」と言わせています。

 中国の途上国に対する貸付けを皮肉っているわけでもないのでしょうが・・・。

 

 身内の妹の裏切り、呉服商仲間から仲間外れにされて絹製品の商いができなくなる、火事など、次々に災難に見舞われますが、その都度知恵を絞り、周囲からの助けも得て、立ち直り、さらに発展していきます。

 自分たちが苦労して新しい商品を開発したのを、自分の店だけのものとせず、仲間の店と共有して共に発展することを目指す姿は、現代の我々から見ると「何もそこまでしなくても」と思いたくなるほどお人好しです。

 店を発展させる幸らを陥れようとする悪者も登場しますが、登場人物の多くは善人です。読んでいて、心が温かくなるような物語です。

 これからも、折に触れて読み返したいと思います。

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