昨年の夏からコメが不足して高騰したり、野菜やタマゴの高値も続いていますが、それでもスーパーには食料品が豊富に並び、日本ではほとんどの人は飢える心配などせずに暮らしています。しかし、世界に目を向けると、飢えで苦しむ人が大勢おり、日本も今の暮らしを続けることができるのか不安になります。

 本書の副題は「食料安全保障から考える社会のしくみ」で、表紙にはさらに「戦争、原油高騰、温暖化、大不況etc.本当は何が飢餓をもたらすのか」という問いかけがあります。読んでみて、食料問題を考えるうえで必読の入門書であると感じました。

 著者は、京都大学博士(農学)、農業研究者です。しかし、このテーマを語るには、エネルギー、社会、経済の問題を避けて通れません。今の日本の農業は、海外から輸入した化石燃料や化学肥料を使うことを前提としています。1キロカロリーのコメを作るため2.6キロカロリーの化石燃料を使っていて、エネルギー収支はマイナス179%とのことです。トラクターをほとんど使わず、化学肥料もわずかしか使わなかった1955年ころは、投入エネルギー(労働など)の1.1倍ほどの収穫が得られ、エネルギー収支はプラスでした。

 本書は5章で構成されています。第1章は「日本は何人養える?」で、28の一問一答になっています。そこで結論的には、海外から化石燃料を輸入できるという前提であれば8千万人か9千万人、海外からエネルギーも食料、肥料等も輸入できなければ3千万人(鎖国していた江戸時代の人口)という検討結果になっています。

 1998年に農林水産省が、水田は全て作付けし、畑にはジャガイモやサツマイモなどの高カロリー野菜を植え、考えられる限りの対策をとったと仮定したシミュレーションでは、8千万人という結果だったとのことです。ただ、この試算は、石油等の輸入は現状のままという前提です。

 第2章は「飢餓はなぜ起きる?」というテーマで、飢饉のときに都市住民より農民の餓死者が多い理由、農業国に貧しい国が多く飢える人も多い理由等が示されます。第3章は「大規模農業はすべてを解決するのか?」というテーマで、大規模化した場合の問題点等が示され、それぞれも問題が検討されています。

 ウラン燃料も限界が見えているので原子力発電も一時しのぎにしかならず万一の事故の際の「取り返しのつかなさ度」(著者の造語)を考えれば頼れるようなものではありません。太陽光発電などもまだ問題を解決できる技術水準ではないようです。
 このようなことを長期的視野で検討し、政策を考えるような政治家が存在してくれればいいのですが・・・。
 にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村 ご覧いただきありがとうございます。

 
サイト案内(目次)

スポンサードリンク