NHK朝ドラ「虎に翼」で、ヒロインの再婚相手の星航一が戦前に「総力戦研究所」に所属し、その組織が優秀な若者を集め、模擬内閣を発足させて日米が戦争になった場合の結果を予想させたというエピソードがありました。ここでメンバーば、何度もシミュレーションを繰り返し、日本が必ず敗けるという結論を出して政府に報告しました。
「人は自分の信じたいことだけ信じる」 参照願います。
ネット情報でこのエピソードが史実であることを知り、調べたところ、本書に詳しく紹介されているようなので、読んでみることにしました。
私が読んだのは、小学館が発行している「日本の近代 猪瀬直樹著作集8 日本人はなぜ戦争をしたか」、副題が「昭和16年夏の敗戦」です。これと別に、中公文庫で「昭和16年夏の敗戦 新版」(猪瀬直樹)が刊行されており、この巻末には石破茂氏との対談が載っているとのことですが、市立・県立図書館、ブックオフにも在庫がなく、残念ながら入手できませんでした。本文の内容は、本書と同じでしょう。
「虎に翼」の星航一のモデルは、東京地裁の判事だったところを駆り集められた、三淵乾太郎で、彼は模擬内閣で司法大臣兼内閣法制局長官を務めています。これと同様、陸軍から駆り出されたメンバーは陸軍大臣、海軍から駆り出されたメンバーは海軍大臣といった具合に、出身母体、専門性に応じて、模擬内閣の閣僚らが割り当てられています。各メンバーは、それぞれの省庁等からデータをもらって持ち寄り、ち密に戦争の帰趨をシミュレートしました。その予測は驚くほど正確で、真珠湾攻撃と原爆投下だけは予測できなかったものの、南方(インドネシア等)からの石油や鉄鉱石の輸送は船が沈められてダメになり物資不足になることや、戦争末期にはソ連が参戦することまで予測しています。戦争は、ほぼその予測どおりに進み、敗戦に至ります。
本書は、研究所の研究生やスタッフの日記、研究生が提出したレポート、証言のほか、「木戸幸一日記」、極東軍事裁判の記録などを集約して、この研究所や模擬内閣による机上演習、議論に迫っています。
この研究所のこと以外にも、いろいろ知ることができました。東条英機は、陸軍大臣のころは主戦論者の中心でしたが、天皇陛下に対する忠誠心は人一倍厚い人でした。昭和天皇は、戦争を是非避けたいと考えていて、主戦論者の中心である東条を内閣総理大臣にし、主戦論を抑えて戦争を回避するよう命じました。東条も懸命に陛下の指示を達成しようとしましたが、回り始めた歯車は戻せなかったようです。私は、東条を誤解していました。