ipt async src="//pagead2.googlesyndication.com/pagead/js/adsbygoogle.js"> 資金前渡 : 地方自治日記

地方自治日記

地方自治に誠実に取り組んできた県職員OBです。県の市町村課に長く在職したほか、出納局、人事委員会などのいわゆる総務畑が長く、自治制度等を専門分野としてきました。県を退職後も、時々、市町村職員などの研修で、自治制度、公務員制度、文書事務などの講義もしています。 単に前年どおりに仕事をすることが嫌いで、様々な改革・改善に取り組んできました。各自治体の公務員の皆様には、ぜひ法令を正しく合理的に解釈し、可能な限り効率的、効果的な行政運営をしていただきたいと願っています。

タグ:資金前渡

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 多くの家庭では、電気、ガス、水道等の公共料金は、給与や生活費を管理する金融機関の口座から自動的に引き落とされる手続をしています。我が家もそうです。

 しかし、地方自治体で、そのやり方で支払っているところは極めて少数で、その理由は、次のようなことだろうと思います。

 

自治法は口座自動振替を認めているか?

 自治法第232条の4で、地方公共団体の支出は、長の命令により、会計管理者が審査したうえで行わなければならないことになっています。自動振替は、一度手続をすれば、長の命令の有無にかかわらず、会計管理者の審査がされたかどうかにかかわらず、指定金融機関の公金口座から勝手に引き落とされます。これは、自治法の許容するところではないと思われます。

 また、自治体が支払をする方法は、自治法第232条の5第2項に列挙されている方法と、第232条の6で規定している小切手の振出等に限定されています。限定列挙の中に、「公金振替」がありますが、これも自治令第165条の2で、会計管理者の通知に基づいて行うこととされており、自動振替は想定されておりません。

 結局、口座自動振替は、自治法の規定に反していると考えられることから、多くの自治体では採用していないのでしょう。我が小規模自治体でも検討しましたが、NHK受信料などは資金前渡の方法をとり、資金前渡職員の口座から自動引落しする方法としました。

 NHK受信料を長期継続契約、資金前渡の対象に指定」参照

 

自動振替を採用している自治体の財務規則(例)

第○条 電気、ガス、水道、下水道、電気通信役務及び放送受信に係る料金は、口座自動振替の方法により支払うことができる。この場合において、債権者の振替情報をもって請求書の提出に代えることができる。

 

 確かに便利だろうと思います。違法かもしれませんが、誰の権利も侵害しておらず、この違法を訴える原告適格を有する者は、私には想定されません。

 私は、やりませんが、法令が現実に追い付いていない結果とも考えられ、割り切って断行された自治体を批判する気はありません。

 

〈参照条文〉

地方自治法

 (支出の方法)

232条の4 会計管理者は、普通地方公共団体の長の政令で定めるところによる命令がなければ、支出をすることができない。

 会計管理者は、前項の命令受けた場合においても、当該支出負担行為が法令又は予算に違反していないこと及び当該支出負担行為に係る債務が確定していることを確認したうえでなければ、支出をすることができない。

232条の5 普通地方公共団体の支出は、債権者のためでなければ、これをすることができない。

 普通地方公共団体の支出は、政令の定めるところにより、資金前渡、概算払、前金払、繰替払、隔地払又は口座振替の方法によつてこれをすることができる。

(小切手の振出し及び公金振替書の交付)

232条の6 第235条の規定により金融機関を指定している普通地方公共団体における支出は、政令の定めるところにより、現金の交付に代え、当該金融機関を支払人とする小切手を振り出し、又は公金振替書を当該金融機関に交付してこれをするものとする。ただし、小切手を振り出すべき場合において、債権者から申出があるときは、会計管理者は、自ら現金で小口の支払をし、又は当該金融機関をして現金で支払をさせることができる。

2 略

 

地方自治法施行令

(口座振替の方法による支出)

165条の2 地方自治法第235条の規定により金融機関を指定している普通地方公共団体において、指定金融機関、指定代理金融機関その他普通地方公共団体の長が定める金融機関に預金口座を設けている債権者から申出があつたときは、会計管理者は、指定金融機関又は指定代理金融機関に通知して、口座振替の方法により支出をすることができる。


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 NHK受信料について、
以前在職していた県庁も同様だったのですが、私が現在所属している小規模自治体でも、根拠なく年度をまたいで契約している実態でした。また、口座自動振替にすれば受信料が多少安くなるので、その2点が気になっていました。このたび(平成2912月)、長の御理解をいただき、適正化できたので、御報告させていただきます。

 

長期継続契約の対象に指定

 NHK受信契約は、4月から1年ごとの契約にしたとしても、その更新の合意は3月末までにされているはずであり、年度をまたがざるを得ません。しかし、自治法第234条の3でも自治令第167条の17でも、NHK受信料は対象とされておらず、自治体が条例で長期継続契約に指定するか、債務負担行為を設定しなければ、年度をまたいで契約できません。

 当自治体の「長期継続契約が締結できる契約を定める条例」では、施設等の維持管理や機器等の賃貸借に加え、「その他長が特に必要と認める契約」という包括的な号が設けられており、これに基づいて「日本放送協会との放送受信契約」を指定しました。

 私がかつて属していた県庁など、他の自治体では財務規則で追加できるような条例になっている場合が多いので、その場合は財務規則を改正すればいいわけです。
 なお、自治法に精通しておられる方は、長期継続契約は各年度の予算の範囲内で役務の提供を受けなければならないことを危惧されるかもしれません。しかし、このような運営費は、暫定予算でも認められるべきもので、所要の予算が議決されないというのはありえない事態だと思います。また、万一の場合は、テレビを除却(受信料のかからない状態に)する覚悟です。

                          

資金前渡の対象に指定

 多くの自治体では、電気、ガス、水道などの公共料金は、資金前渡として資金前渡職員の口座に振り込み、その口座から自動引き落としとしています。しかし、自治令第161条第1項の各号を見ても、NHK受信料は該当せず、他の公共料金と同じ扱いにしようとすれば、第17号に基づいて、自治体の規則(財務規則等)で指定しなければなりません。

 先日、財務規則の改正手続を終え、NHK受信料を資金前渡の対象に加えました。


この制度改正をした理由

 この規則等の整備によって安くなる受信料は、年間わずか550円です。しかし、一度やっておけばずっと有効であること、年度をまたぐ契約を適正化すべきことから、実施しました。もっと大胆に、公金口座から直接自動引き落としを容認している自治体があることも承知していますが、違法っぽいので、次善の手法にしました。(このことについては、いずれ別稿で)
 「地方自治体の口座自動振替の可否」参照

 地方自治法もNHKも総務省の所管です。長期継続契約にしろ資金前渡にしろ、法律、政令でNHK受信料を初めから対象にしなかったことは、立法ミスのような気がしますが、自治体でできる改善は、今後も続けたいと思います。

 

〈参照条文〉

地方自治法

(長期継続契約)

234条の3 普通地方公共団体は、第214条の規定にかかわらず、翌年度以降にわたり、電気、ガス若しくは水の供給若しくは電気通信役務の提供を受ける契約又は不動産を借りる契約その他政令で定める契約を締結することができる。この場合においては、各年度におけるこれらの経費の予算の範囲内においてその給付を受けなければならない。

地方自治法施行令

(資金前渡)

161 次に掲げる経費については、当該普通地方公共団体の職員をして現金支払をさせるため、その資金を当該職員に前渡することができる。

1~(8)、(10)~(12)、(15)(16) 略

(9) 官公署に対して支払う経費

(13) 電気、ガス又は水の供給を受ける契約に基づき支払をする経費

(14) 電気通信役務の提供を受ける契約に基づき支払をする経費

(17) 前各号に掲げるもののほか、経費の性質上現金支払をさせなければ事務の取扱いに支障を及ぼすような経費で普通地方公共団体の規則で定めるもの

(長期継続契約を締結することができる契約)

167条の17 地方自治法第234条の3に規定する政令で定める契約は、翌年度以降にわたり物品を借り入れ又は役務の提供を受ける契約で、その契約の性質上翌年度以降にわたり契約を締結しなければ当該契約に係る事務の取扱いに支障を及ぼすようなもののうち、条例で定めるものとする。



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 一般家庭では、電気料、電話料、NHK受信料などは、銀行口座からの自動引き落としが普通だと思います。しかし、国や地方公共団体は、事情が異なります。支出命令などの手続をせずに公金の口座から「自動的に」引き落とされることは、許されません

 そこで、資金前渡という制度が使われることがあります。

 

資金前渡とは

 資金前渡とは、特定の経費について指定した職員(資金前渡職員)に概算で交付し、その職員から現金で支払をさせ、後日領収書等で精算させることです。昔は、正職員や非常勤職員の給与なども、資金前渡職員の口座にいったん支払われ、給与担当者がその口座から現金をおろして給料袋に詰め、個々の職員に配っていました。

 現在は、電気料、光熱水費、電話料などは、所要額を公金口座から出金して資金前渡職員の口座に入れておき、そこから口座振替で支払うという地方公共団体が多いようです。うまく活用すれば、企業における小口現金のような便利な活用も可能です。

 資金前渡の手法で支払できる経費は、地方自治法施行令で定められています。

 

地方自治法施行令第161条第1(資金前渡)

次に掲げる経費については、当該普通地方公共団体の職員をして現金支払をさせるため、その資金を当該職員に前渡することができる。

1) 外国において支払をする経費

(2) 遠隔の地又は交通不便の地域において支払をする経費

(3) 船舶に属する経費

(4) 給与その他の給付    略

(13) 電気、ガス又は水の供給を受ける契約に基づき支払をする経費

(14) 電気通信役務の提供を受ける契約に基づき支払をする経費

(15) 前二号に掲げる経費のほか、二月以上の期間にわたり、物品を買い入れ若しくは借り入れ、役務の提供を受け、又は不動産を借り入れる契約で、単価又は一月当たりの対価の額が定められているもののうち普通地方公共団体の規則で定めるものに基づき支払をする経費

(16) 犯罪の捜査若しくは犯則の調査又は被収容者若しくは被疑者の護送に要する経費

(17) 前各号に掲げるもののほか、経費の性質上現金支払をさせなければ事務の取扱いに支障を及ぼすような経費で普通地方公共団体の規則で定めるもの

 

NHK受信料の問題点

 御覧の通り、NHK受信料は施行令では対象とされておらず、資金前渡するには、各団体の財務規則などで定める必要があります。しかし、そのような定めをしている団体はあまりありません。

 これは、おそらく、自治法施行令に規定するのを総務省が失念したと思うのですが、悪意に考えると別の可能性もあります。

 NHK受信料は、口座振替であれば料金が多少割引になります。NHKと地方自治法の両方を所管する総務省としては、地方公共団体に対して割引の適用をしたくなかった?

考えすぎだとは思うのですが・・・。

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