ipt async src="//pagead2.googlesyndication.com/pagead/js/adsbygoogle.js"> 1者 : 地方自治日記

地方自治日記

地方自治に誠実に取り組んできた県職員OBです。県の市町村課に長く在職したほか、出納局、人事委員会などのいわゆる総務畑が長く、自治制度等を専門分野としてきました。県を退職後も、時々、市町村職員などの研修で、自治制度、公務員制度、文書事務などの講義もしています。 単に前年どおりに仕事をすることが嫌いで、様々な改革・改善に取り組んできました。各自治体の公務員の皆様には、ぜひ法令を正しく合理的に解釈し、可能な限り効率的、効果的な行政運営をしていただきたいと願っています。

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 地方公共団体の契約は、主に一般競争入札指名競争入札随意契約のいずれかの方法で行われます。このうち、指名競争入札とは、資力信用等から適当な複数の参加者を選んで入札によって競争させ、最も有利な条件を示した者と契約を締結する方法です。

 

「地方財務実務提要」の珍説

 この書籍は、指名競争入札の場合、1者しか参加しなかった場合は入札を遂行すべきでないとするのが通説であると言っています。また、当初の入札には複数の参加者がいたが落札者がおらず、再度の入札(いわゆる再入札)に付した際に辞退者が出て参加者が1者しかいない場合も、執行すべきでないとするのが通説であると言っています。

 条文に基づく解釈を一切示さずに、これが通説であると逃げるのは、非常に無責任な態度だと思います。そもそも、こういう説を主張している書籍は他にほとんど見当たらず、この同じ編集者のグループ(○○制度研究会)が言っているに過ぎないのではないかと思います。

 

初度の入札についての検討

 地方自治法や施行令には、指名競争入札で参加者が一人の場合は執行しないよう求めていると解釈できる文言はありません。したがって、何も条件を付けずに入札を始め、参加者が1者しかいなかったからといって打ち切ってしまうのは、法令上の根拠もなく、参加者を裏切る行為であり、できないでしょう。

 明文の規定がなくても、地方自治法等の趣旨から、当然にそう解釈すべきだという主張があるかもしれませんが、それが誤りであることは、法令の論理解釈から説明できます。

  「指名競争入札の参加者数  自治法はどう想定しているか?」参照

 私も、指名競争入札で当初から参加者が1者だったとすれば、指名が著しく不適当であった可能性があるので、入札は打ち切るべきだと考えています。しかし、その団体の規則や指名通知の際の条件等で、その旨あらかじめ明示していなければ、そのような扱いはできないと思います。そういう前提条件や説明なしに、「通説」などと私見を正当化するのは、無責任です。

 

再入札についての検討

 当初の入札には複数の参加者がいたが落札者がおらず、再入札に付した際に辞退者が出て参加者が1者しかいない場合は、どうでしょうか?

 「地方財務実務提要」では、「当初の入札がその競争性を有していたとしても、この再度入札は競争性を著しく欠くものでありますから、・・・ 執行すべきでないとするのが通説」と主張しています。この「通説」なるものが怪しいことは、前述のとおりです。

 一般競争入札も指名競争入札も、再入札については、初度の入札に参加した者しか参加できない点で、変わりはありません。つまり、この書籍の説明では、一般競争入札についても再入札でこのような事態になれば、「この再度入札は競争性を著しく欠く」ので、打ち切らなければならないことになってしまいます。しかし、一般競争入札でそのような取扱いをするはずがなく、この理由、解説は、明らかに誤りです

 初度の入札で精一杯の金額を入れた人は、それで落札できなかった場合、契約をあきらめて再入札を断念することは、ごく普通のことです。初度の入札に複数の参加者がいたということは、指名が著しく不適当ではなかったことを示しています。

 再入札に独自の競争性を要求する必要などなく、不合理です。

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 地方自治法や施行令は、指名競争入札で参加者が1者であった場合には、入札を執行せずに、打ち切ることなど、予定しているでしょうか?「地方財務実務提要」のそのような記述は、正しいでしょうか?

 

地方自治法施行令の関連条文

(指名競争入札)

167  地方自治法第234条第2項の規定により指名競争入札によることができる場合は、次の各号に掲げる場合とする。

(1)工事又は製造の請負、物件の売買その他の契約でその性質又は目的が一般競争入札に適しないものをするとき。

(2)その性質又は目的により競争に加わるべき者の数が一般競争入札に付する必要がないと認められる程度に少数である契約をするとき。

(3)一般競争入札に付することが不利と認められるとき。

(随意契約)

167条の2  地方自治法第234条第2項の規定により随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。

(8) 競争入札に付し入札者がないとき、又は再度の入札に付し落札者がないとき。

 

次の理由から、地方自治法や施行令は、指名競争入札で参加者が一人になった際には入札を打ち切ることなど、予定していないと考えられます。

1 そのような扱いを求めていると解釈できる条文がない

2 施行令第167条の21項第8号により、指名競争入札でも、参加者がゼロだった場合は随意契約に移行できることになっているが、参加者が1者だった場合は随意契約はできない。これは、参加者が1者だったとしても、入札を遂行することを予定していると解釈せざるを得ない。そうでなければ、著しく不合理であり、そのような解釈はできない。

3 施行令第167条第2号では、競争に加わるべき者の数が一般競争入札に付する必要がないと認められる程度に少数である場合は、指名競争入札を選択できることになっている。しかし、実際の参加者が1者だった場合は打ち切るという運用をすれば、それを避けるため、参加者が極めて少数と認められる契約は、指名競争入札を選択できない。これは、施行令の想定している運用ではない

 

 以上のとおり、文理解釈からも論理解釈からも、地方自治法や施行令は、指名競争入札で参加者が1者であった場合にも、入札を執行せずに打ち切ることなど予定しておらず、淡々と入札を遂行することを予定していると解釈されます。

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